第14章 紫電一閃
一方二人の会話を耳にし、よもやこの無害そうな人が武将だと思いも寄らなかったらしい凪は内心で驚きを露わにする。しかもその相手が死んだと噂されていたらしいというのだから尚更だ。
(でもその気ないからって堂々と敵国来るこの人も、結構な変わり者だよね…)
自分や周りの事を棚に上げて言うのもなんだが、もう少し潜んで目立たないようにする気遣いくらいは必要なのではないかと思う凪だった。
「……ちなみに彼女とは、ただ焼き物の話をしてただけだよ、ね?」
「え!?そ、そうです」
何故先程まで二人が交わしていた内容に触れたのかは分からないが義元は一度光秀を見やった後、凪へ視線を合わせて柔らかく笑い、同意を求める。嘘をつくまでもなく、確かにその通りなので反射的に頷けば、上から光秀の探るような視線が降って来た。何となくそれがいたたまれなくなり、顔を上げて光秀相手に視線を合わせるとぶつかった金色の眼をじっと見つめる。
「本当ですよ?」
「疑っているわけではない。お前は分かりやすいからな」
「それはそれでどうかと…」
念押しのように告げられた言葉へ双眸を眇めた光秀は、珍しく憮然とした表情のままで言い切った。単純な奴、と暗に言われたような気がして、気を悪くしないまでも苦笑を溢して見せると、二人の様子を正面から眺めていた義元がゆるりと首を傾げ、双眸を不思議そうに瞬かせる。
「もしかして、二人は恋仲なの?」
「え!?」
今まで安土の武将達に誰一人投げられなかった直球すぎる質問を何食わぬ様子でぶつけて来た義元に対し、凪がぎょっとした様を見せて光秀から視線を戻した。
「違います!!!」
迷う事なくきっぱり否定した凪の心境としては、そんな変な誤解をされたら光秀に迷惑をかけてしまう、といったものだったが、はっきり否定された方は少しばかり複雑である。
それが密やかに、しかし一部には割とわかりやすく想いを寄せている相手ならば尚の事だ。とはいえ、凪が否定する事など想定の範囲内なのだが。
「…そう?じゃあ良かった」
「はあ……」
果たして何が良かったのかは分からなかったが、安堵した様子で穏やかに笑む義元を見つめ、そのとてつもないマイペースさに普段の調子を崩された凪は気の抜けた相槌しか打てない。