第14章 紫電一閃
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─────少し時は遡り、凪が義元と焼き物屋で不可思議な邂逅を果たしていた一方。
九兵衛と共に路地裏ヘ身を滑らせた光秀は、薄暗いその中で部下と向き合い、早々に話を無言の内に促した。
九兵衛も、凪を焼き物屋へ残している事を主君が懸念しているだろうと察し、おもむろに口を開く。
「摂津隣国の廃城から忽然と消えた兵糧の件ですが、持ち去った者の正体が一部判明致しました」
「ほう…?」
九兵衛が部下数名を連れて向かった摂津の隣国。
清秀の命で農民達が運び手として使われ、数多の兵糧を運び込んでいたという隣国の廃城については、一度八瀬から受け取った九兵衛の報告にも記載があった。
一夜の内に消えた兵糧の行方を、密かに追って来たのだろう。深追いは禁物だと告げたにも関わらず、おそらくこの優秀過ぎる部下は後に光秀自身が動くと踏んで、自ら調査に出たのだ。
「何処の手の者だ?」
「それが…海賊によって荷を奪われたらしいのです」
九兵衛が些か険しい面持ちを浮かべる。物騒な単語を耳にした光秀であったが、八瀬から報告を貰った折に推測した通り、海路を使って運び出した事がこれで確定された。しかし、それがまさか海賊だとは。
瀬戸内の海に以前から海賊が出現するらしいといった情報は幾つか仕入れてはいたが、清秀が集めた兵糧と海賊は果たして結びつくのか、今度はそれを探る必要がある。
「城に荷物番として残されていた農民の話ではありますが、見掛けた者の風貌を聞く限り、おそらく間違いないかと」
「そうか…清秀殿が海賊と手を組んだか、あるいは意図せず海賊に荷を奪われたか…。前者だとすれば大層厄介だが、その可能性の方が高いだろうな」
「ええ、私もそう思います。よって、独断で申し訳ありませんが、少数の部下をそちらの調査へあたらせております」
「ああ」
九兵衛の話を淡々と耳にしていた光秀は、自らの顎へ片手をあてがい、一度思案げに視線を伏せては真剣な眼差しを覗かせた。別行動中における決定権は九兵衛へ一任している為、彼の判断で部下を調査にあたらせたというならば、それを咎める意はない。脳内で行き交う様々な情報を整理しつつ、光秀は意識を路地の外へ向けた。