第14章 紫電一閃
一つは白花色(しらはないろ)のシンプルなもの、もう一つは薄っすら水色がかったもの。どちらも光秀に似合うような気がして、なかなか一方へ決められない。
最終候補に近い二つを見比べつつ、悩みながら眉根を寄せてつい独り言を溢した。
「…うーん、やっぱり第一印象でこっちの白い方かな…でも薄い水色っぽいのもいいかなー…」
「どっちもいいと思うけど、俺はこの白藍(しらあい)が好きだな」
「そうですよね、こっちの色も凄く捨て難くって…」
「両方気に入ったなら、どちらも買ったらいいんじゃない?」
「いえ、ここしばらくは節制に努めないといけないので……って、え?」
自らの独り言へごく自然にかけられた声に、つい幾つか会話を繋げてしまった凪だが、さすがに違和感に気付いたらしい彼女がそっと隣を見やる。
(誰…!?というか、近っ…!?)
凪のすぐ隣、軽く身を屈めて彼女と同じ湯飲み茶碗を覗き込むようにしていた男が、驚く凪へ顔を向けて柔らかく口元を綻ばせた。
突如として隣へ現れた優雅且つ端正な男の姿に目を見開いた凪は、光秀とはまた違った色気の種類を滲ませる相手を前に言葉を失う。
着流しを洒落た様子で着こなす男は、片手に持った扇子をひらりと扇いで軽く風を送り、再び陳列棚へ視線を戻した。
「ひとつしか選べないなら、それは難題だね。どちらも特に銘は無いけど、とても良い焼き物だと思う。俺もさっき通りがかった時に、いいなって思ったんだ」
俺達、気が合うのかもしれないね。耳に心地よい柔らかな調子でそう告げ、焼き物から凪へ視線を戻した男───今川義元は女性を虜にする甘やかな口元へ微笑を乗せる。
「え!?そう、ですね?…あ、もしかしなくてもお客さんですよね。すみません、お店の前占領しちゃって…」
「気にしないで。確かにこの店の焼き物はどれも素晴らしい品だけど、俺が今ここへ立ち寄ったのはそれだけが目的じゃないから」
焼き物に興味を示していた男を同じ客だと判断した凪はちょうど店の正面を陣取って悩んでいた事に気付き、申し訳無さそうにそこから端へずれようとする。