第14章 紫電一閃
ふと、凪が視線を幾つかの湯呑み茶碗へ向けている様を眺めていた光秀の耳に、久し振りに聞く部下の声が届いた。それは当然隣に居た凪にも届いていたらしく、一度興味をそちらから移した彼女は光秀と共に同じ方向へ顔を向ける。
「あ、九兵衛さん!お久しぶりです…!」
「戻っていたか。ご苦労だったな」
「ええ、本日の昼過ぎにこちらへ到着致しました。凪様もお元気そうで何よりです」
同じく焼き物屋の前へやって来た九兵衛は光秀の前で頭を下げると、隣で笑顔を見せる凪へ視線を向け、微かに口元を綻ばせた。
摂津で別行動になった旨を聞かされてから、実に数日振りの再会である。並んで店へやって来ている主君と姫君の関係が果たして一体どうなったのやらと疑問を抱いた九兵衛であったが、持ち帰った情報を伝えるべきかと無言のままで光秀へ視線を向けた。
慣れたやり取りである為、光秀がその視線の意図に気付かぬ訳もない。金色の双眸を僅かに眇めたのち、彼は一度凪へ振り返った。
「凪、少し九兵衛と話がある。お前はここで大人しく見ていろ。いいな」
「分かりました。ゆっくり選んでるので大丈夫です」
「主人、この娘を頼む」
「心得ましてございます」
暗にゆっくり九兵衛と話して来ても大丈夫だ、と告げた凪へ視線を合わせた後、店の奥に控えている店主へ声がけをした光秀はそのまま身を翻し、九兵衛を伴って焼き物屋から少し離れた路地裏へと入って行く。
光秀と九兵衛の二人を見送った後、凪は再び陳列された品々へ意識を戻した。
光秀の馴染みの店だというだけあり、品揃えも豊富で湯呑み茶碗だけでも沢山の種類がある。正直あまりこういったものには詳しくない為、何がどれだけ良い品なのかは分からないが、せっかくなので光秀に似合いそうなものを選びたいところだ。
(割っちゃったのは水色の方じゃなくて別のだったけど、あれも光秀さん用の中の一つだったし、色々お礼も兼ねて渡したいからなー…)
目下、凪の中での候補は現段階で二つに絞られていた。