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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第14章 紫電一閃



くつくつと喉奥で低く笑った光秀を前に、自分の発言をいじられている自覚はあるらしい凪は薄っすら耳朶を紅く染めて頭を撫ぜる男の腕を両手で外す。
無鉄砲さと申し訳無さと羞恥に苛まれている凪がそっぽを向く様を見て、笑いを収めた光秀は少なくとも沈んだ表情ではなくなった事を確認し、すくうように片手を取り、しっかりと繋いだ。

「まあそうむくれるな。行くぞ、凪」
「……洗濯はやめてくださいね」
「考えておこう」
「もう…!!」

軽く腕を引かれ、そのまま歩き出した二人は結局再び並び、軽口を叩き合いながら目的地である焼き物屋へと向かう。
当初の目的地であった馴染みの焼き物屋は先程の騒ぎがあった場所から少し足を伸ばした位置にあり、店前で立ち止まった光秀が奥から顔を覗かせた店主へ軽く挨拶を交わした。光秀が直接顔を出す事は珍しく、驚いた老齢な店主は隣に居る凪の姿を認めると柔らかく面持ちを綻ばせる。

「これはこれは愛らしいお連れ様ですね、明智様。本日はどのようなご用向きで?」
「今日はこの娘の付き添いだ。しばし邪魔するぞ」
「左様でございましたか。どうぞごゆっくりご覧ください。何かございましたらお声掛けくださいませ」
「ありがとうございます」

にこやかな店主へ軽く会釈をすれば、相手も深く礼を返してくれた。邪魔をしてはいけないと店の奥へ控えた店主を見送った後、繋いでいた手を自然と離した凪が店先に並んだ品を興味深そうに眺める。
敢えて特に何も問わず、隣に並び立ちながら彼女が向ける視線の先を追っていた光秀は、様々な種類の焼き物の中で凪が湯呑み茶碗へ幾度か意識を向けている事を悟り、昨日の御殿での一件を思い出した。

(……まさか、割れた湯呑みの代わりを買いに来たのか?)

幾つもある内の一つが割れたとて、光秀としてはあまり気にかけていなかった事もあり、凪の寄り道先が焼き物屋だと告げられた時は、その理由に思い当たりもしなかったのだ。
だが、思えば凪は律儀で真面目な側面がある。自分の所為で割れてしまったからと、おそらく新しいものを買いに来たのだろう。

「光秀様」

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