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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第14章 紫電一閃



口元から笑みを消し去り、隣に居る凪へ視線を静かに流した光秀は感情の起伏が窺えない調子で敢えてゆっくりと言葉を紡いだ。先程までの和やかな空気感が一変し、顔を僅かに引き攣らせた凪がぎくりとした様子で光秀を見上げる。

「お前の気概や怒りを否定するつもりはない。ああして物怖じせず立ち向かって行く姿勢はお前の美徳でもある」
「…う、」
「だが、相手は仮にも得物を持った男だ。己の身に危険が降りかかる場合があると先読みした上で行動を取れ。問答無用で斬りかかって来る男だったらどうする」
「……返す言葉もないです」

淡々と並べ立てられる光秀のそれは全て正論であり、ぐうの音も出ない。光秀が傍に居て凪に危害が及ぶとは正直、光秀自身が一番ありえないと考えている事だが、この乱世に絶対と言えるものは数少ないのだ。
頭に血が昇ってしまい、つい衝動的な行動に出てしまったが、さすがに考えなしであったと反省した凪は落ち込んだ様子で肩を落とす。眉尻が下がり、心なしか縮こまった印象を与える彼女の姿は飼い主に叱られた仔犬状態だが、ここは甘やかす訳にもいかなかった。

「……せめて、自分の身の安全を考慮した上で動くようにしろ」
「…ごめんなさい」

吐息と共に発せられた言葉は怒りよりも心配が滲んでいる。自分自身を案じてくれている光秀に対し、凪は自分本意で迷惑をかけてしまった事へ後悔を滲ませ、素直に謝った。地面へ投げられている黒の眼がゆらゆら揺れている様を見て取り、光秀は一度切り替えるよう緩慢な瞬きをしておもむろに持ち上げた片手で頭を撫でる。

「それにしても、武士相手に帰って洗濯しろと言ってのけた様は、なかなか愉快だったぞ」

揶揄するよう口角を持ち上げ、笑いを滲ませながら告げた光秀へ顔を上げた凪は、しばらくされるがままに頭を撫でられつつ光秀を見ていたが、やがてむっと眉根を寄せると顔を逸らした。

「それはなんていうか…忘れてください」
「あれだけ衝撃的な言葉は、到底忘れられるものではないな。俺もひとつ、今後の為に洗濯の腕を磨いておくとしよう」
「想像するまでもなく絶対似合わないので止めてください…っ」

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