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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第14章 紫電一閃



「これで家族の人数に足りる分を買うといい。今度は落とさないよう気を付ける事だ。失敗はお前次第で学びに変えられる」

決して優しい声色ではない静かな調子のものだったが、言い切った後でほんの僅か綻んだ男の口元を目にし、少年が嬉しそうに笑った。

「ちょっと待って。光秀さん、一旦お金持ってくれます?」
「…ん?」

少年と光秀、二人のやり取りにじんわり胸の奥が暖かくなる心地を覚えながら、凪は懐から淡い藤色に染められた薄手の手拭いを取り出した。いわゆるハンカチ代わりに持ち歩いていたが、使う機会がなかった為、今日は袂へ入れたままであったそれを適度に折り畳む。
声を掛けられた光秀が、凪のやろうとしている事の意図を察すると、一度少年から銅銭を預かった。

「桶も持たなきゃだし、落としたら大変だからね」

小さな手のひらの上へ畳んだ手拭いをふわりと置けば、光秀が預かった銅銭を再びその中へ置いてやる。中身が散らばってしまわぬよう手拭いの端と端を持って中の銅銭を包むように結んだ。
綺麗に包まれた手拭いと銅銭を前に、凪が満足げに笑って少年へ笑いかける。

「怖い思いもして散々だったけど、でもその分もっと良い事があったね」
「うん…!ありがとう!」

銅銭が包まれた手拭いを手にしたまま少年が凪につられるよう笑顔を溢した。笑い合う少年と凪の姿を見やり、光秀は眩しそうに双眸を僅かに眇める。やがて口元へ笑みを乗せると静かに立ち上がった。傍に立つ光秀から柔らかな眼差しが注がれている事に気付いていない凪は、その後、幾つか少年と言葉を交わした後で二人同時にゆっくり立ち上がる。

「本当にありがとう!俺、もう一回魚問屋に行って来る…!」

銅銭を落とさないよう袂に入れ、魚を入れていた桶を抱え直した少年は二人に向かって頭を下げ、そうして嬉しそうに告げると身を翻した。
小さな背が駆けて行くのを見送った後、光秀は微かな吐息を漏らし、隣に居る凪へ視線を向ける。

「……さて、凪。ご機嫌なところへ水を差すのは些か忍びないが、説教をされる覚悟は当然出来ているんだろう?」
「………え゛」

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