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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第14章 紫電一閃



腰を浮かせかけていた少年は突如目の前に現れた凪の背を驚いたように見つめ、脱力した様子で再び地面へ座り込む。
男の言い分をすっぱり切り捨てた凪の思い切りの良さに光秀が軽く目を見開く中、周りの町人達も驚愕を抱きつつ、固唾を飲んでその場を見守っていた。
よもや小娘相手に馬鹿呼ばわりされるなど思いも寄らず、ましてやこんな往来でぶつけられた屈辱の言葉に、男は怒りと羞恥が綯い交ぜになった面持ちで短く息を呑む。

「町娘風情が、武士たる俺に向かってなんと無礼な口を…!」
「さっきから武士武士って、そんな連呼する程偉いわけ?だったらふんぞり返るんじゃなく、相応の態度を取りなさいよ」
「卑しい身分の餓鬼にかける情けなどあるものか!」
「そもそも身分とか、そんな見えもしないどうでもいい事気にしてる時点で、程度が知れるって言ってるの!」

この乱世において身分が絶対である事は、先日女中達と交わした会話でも理解はしているつもりだ。けれど、凪はそもそもそんな括りなど存在しない世で育った人間である。
身分ひとつを理由に子供をここまで打ちのめすなど、到底理解出来る筈もないし、したくもなかった。

さも身分など関係ないと言い切った凪を前に、男が息を呑んで怒りに震えた。男の自尊心の中心たる部分を、どうでもいい事、などと愚弄されて正気でいられる筈もない。
正面に立っている凪は怖気づいた様子もなく、ただ毅然として怒りを露わに立っていた。逸らされる事のない黒々とした眼を前に、男が悔しそうに歯噛みする。

「おのれ、女…!」
「それから、さっき上物の袴がどうとか言ってたけど、ただ水がかかっただけじゃない。そんなに大事なものなら、こんなとこで女子供に構ってないで、さっさと帰って洗濯でもしなさいよ!」

くす、と零れたのは果たして何処からであっただろう。
凪がぴしゃりと言い放った言葉を耳にし、小娘相手に洗濯でもしろなどと言われた武士があまりに滑稽で、野次馬の中からさざなみのような密やかな笑いが広がった。激昂している男の傍に立つ連れも思わず笑いを漏らしてしまった程であり、くすくすと広がった控えめなそれ等へ、男の顔が屈辱で真っ赤に染まる。

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