第14章 紫電一閃
いまだ明るさを保った周囲を物珍しそうに見回し、凪は活気あふれる様へ感心を抱いた。
有崎城下よりも大きな安土城下町は、さすが天下人の膝下と言うべきか、規模が何処よりも大きい。とはいえ、凪はまだそれ程多くの町を見て来たわけではないのだが。
大通りの左右には座敷を敷いた行商が並び、商家や反物屋、酒屋など、様々な種類の店が軒を連ねている。先日御殿から安土城へ向かった際にもこの道を通ったが、行き交う人々は賑やかで表情も明るく、生き生きとした様が見て取れた。
手を繋いで歩くのは、もはや二人の中で習慣となりつつある。
加えて往来は人も多い為、道歩きに慣れない凪が流されて迷子にならぬよう、という理由を付け加えられてしまえば凪に反論の術はない。
帰路の途中、報酬が入った大きな巾着を更に覆うような形となる秀吉から貰った紺碧色の反物を用いた巾着を持ち、凪は周囲の店をちらりと眺めた後、そっと視線を隣へ歩く光秀へ向けた。
「あの光秀さん、疲れてるところ申し訳ないんですけど…少しだけ寄り道してもいいですか?」
「別に疲れる事など何もない。気にするな。……それで、何処へ寄りたいんだ?」
様子を窺って来る凪へ視線を向け、こちらを見上げて来る漆黒の眼を見つめ返した光秀は緩く口元へ笑みを乗せ、問いかける。
まだ凪が安土へ正式に腰を据えてから三日目とはいえ、そんな事を言い出したのは今回が初めてだった。別にそんな伺いなど立てず、寄りたい場所へ寄ればいいものを、とも思うがおそらく彼女の性格上そうもいかないのだろう。
光秀の色良い返答を耳にし、凪は仄かに嬉しそうな面持ちを浮かべた。黒々とした眼が軽く瞠られ、それから綻ぶ口元へ光秀が穏やかな眼差しを送っていると、思わぬ答えが彼女から帰って来る。
「焼き物屋さんです」
「それはまた予想外な答えだな」
てっきり薬草売りでも覗きたいと言うのかと思えば、焼き物屋とは、光秀とて予想のつかなかった事だ。
ちなみに凪が信長から報酬を貰ったという件は、信長本人から聞かされている為、金銭に関して案じる事はない。