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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第14章 紫電一閃



「どうした、今日は随分素直だな」
「ど、どうもしませんよ!?全然!どうも、まったくしないです…!」
「ほう…?」

おそらく凪自身は気付いていないのだろうが、動揺を誘った場合、彼女は同じ事を二度言う癖があるらしい。僅かに双眸を眇めた光秀はもはや水を得た魚状態で、つい苛めたくなった衝動のまま手首を離した後、覗いた淡い色の耳朶へ吸い寄せられるように身を屈めたが、それと同時、二人の背後で気まずそうな咳払いが響いた。

「!!!?」
「あー…取り敢えずお前ら、俺が居るって事忘れてないか?」

驚いた様子でびくりと背筋を張ったのは凪だけであり、光秀は邪魔をされたとばかりに耳朶へ寄せようとした身を戻し、代わりに薄く微笑する。
苦虫を噛み潰したような秀吉の、こと気まずそうな声を聞き、別の意味で顔を紅く染め始めた凪の頭へ片手をぽん、と乗せて撫でながら光秀は素知らぬ顔で言いのけた。

「おや、居たのか秀吉。この俺に気配を悟らせないとは、見上げたものだ。さすがは信長様の右腕といったところか」
「お前さっき普通に俺と話してただろうが」

条件反射で突っ込んだ秀吉へ肩を竦めてみせた光秀は、いまだ紅くなって固まっている凪へちらりと視線を流し、新たな反応を前にして何処となく嬉しそうに口元をほんの少しだけ綻ばせたのだった。


──────────…


光秀が凪の部屋を訪れたのは、朝に自室へ送ってくれた時に言っていた言葉の通り、ひと仕事終えたら顔を出す、といった意味合いでのものだった。
その後、幾つか秀吉と軽口を叩きあった後、別の仕事があるからと立ち去って行った光秀を見送り、いつまでも付き合わせるわけにはいかないと、後は自分で練習する旨を告げ、秀吉にも礼を言ってその場は解散の運びとなる。
結局、後の時間は一度顔を出したお千代と共に信長が居る天主へ昇り、報酬の礼を言ってからは自室に籠もり、延々と文字の練習をして過ごす形となった。
そうして七つ半を(17時)を越えた頃、仕事を終えて下城する為、迎えに来た光秀と共にいつも通り城下町を横切る形での帰路を辿る事となる。

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