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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第14章 紫電一閃



「凪、入るぞ」

言うや否や、閉め切られた襖を開けられ、反射的に顔を上げた凪と秀吉は入り口に立つ何故か髪が濡れている男の姿を捉えると、それぞれ異なる反応を示す。

「え!?光秀さん、なんで濡れてるんですか?」
「おい光秀、声を掛けたら相手の反応くらい待て。それじゃ声掛けの意味ないだろうが」

ほとんど同時に飛んで来た二人の言葉を耳へ捉え、部屋主の許可なく襖を開け放った男───光秀は、自身の目の前に広がった光景へほんの僅かに目を瞠った。
秀吉が居る事は、昨日地下牢へ赴く旨を伝えていた事もあり、想定内であったが、果たしてこれはどのような状況なのか。
文机の前へ座る秀吉はさておき、その左隣へぴたりと身を寄せていた凪は、軽く机の方へ身を乗り出した体勢となっていた。
手元を覗き込もうとしているのだと容易に予測はついたものの、いかんせん───些か二人の距離が近い。

「少し傍を離れてみれば、随分と仲良くなったものだ。一体何をしている?」

正直少しばかり面白くないと思ったのも事実である。
口元だけに薄い笑みを浮かべた光秀が面白そうに問いかけると、秀吉は硯の上へ筆を置いて入り口に立つ男を見た。笑っているが、笑っていない。何となく珍しい表情をまた一つ目撃してしまったような心地になり、秀吉は視線をそのまま文机へ投げる。

「凪が手習いをしたいと言うから、基礎を教えていただけだ。変な勘繰りは止めろ」
「勘繰りなどしていない。逆に妙な言い訳を取って付けると、真実味が増すぞ」
「相変わらずの減らず口野郎が…」

光秀に対して一応気を遣ったつもりだというのに、けろりとした様子で笑みを深めた男の物言いにぴくりと眉間の皺が増えた。あわやこのままいつもの軽口の応酬が始まるかと思ったが、凪が突如動いた事でそれは終止符を打たれる形となる。
部屋の端に置かれた棚へ向かい、手拭いを取り出した凪は光秀の元へ近付くと、手にしたそれを広げた。

「もう、ちょっと屈んでください」

文句ありげな面持ちで顔を上げた凪を、光秀が驚いた様子で見下ろす。動こうとしない相手へ焦れた彼女は、ばさりと頭へ手拭いをかけ、懸命に背伸びしつつ両腕を伸ばした。

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