第14章 紫電一閃
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凪は正直焦っていた。
原因は言わずもがな、つい先頃までここに居た佐助により告げられた爆弾発言の所為である。
三ヶ月、なんとかやりきれば現代へ戻れると割と楽観視していた凪であったが、それがいつになるか分からなくなったと言われてしまえば焦燥するのも当然と言えよう。
落ち着き無く室内を歩き回り、ぐるぐると思考を巡らせていた凪の脳裏に過ぎったのは生活費と職探しの二つであった。
奇しくも光秀へ咄嗟についた嘘──帰れるのがいつになるか分からない──というものが現実になるとは思いも寄らない事態である。嘘から出た真とはこの事か、と一瞬現実逃避したい気持ちになった彼女だったが、すぐに意識を切り替えてやらなければならない事を脳内でリストアップする。
(まず生活費…いや、文字を覚えないと。読み書き出来ないのは不便過ぎるし、それから出来るだけ情勢を把握出来るようにして…あとはとにかく)
「仕事だ…!!」
働かざる者、なんとやらだ。自分が出来る事を考えると、この時代で役に立ちそうなのは薬草の知識くらいなもので、それを手段として職を探す他ない。
「職安とかそんなのないだろうし、この時代の求人ってどうなってるの?」
自営か奉公か、あるいは人づての紹介か。職業を斡旋してくれる便利なところなどないだろうと考えていた凪は一瞬脳裏に光秀の姿を思い浮かべるも、すぐに打ち消すよう頭(かぶり)を振った。
元々忙しい人に、更に面倒をかけるのだけは避けたいところである。他に相談出来そうな相手を脳裏へ思い浮かべようとしたところで、不意に閉ざされた襖の向こうから声がかかった。
「凪、今ちょっといいか?」
「あ、はい!」
その声はつい先日耳にしたばかりの男の声であり、凪が反射的に返事をすれば、目の前の襖が静かに開かれる。
入り口に立っていたのは秀吉で、片手に大きな巾着袋を持っていた彼は凪が中途半端な場所で立っていたのを目にすると、不思議そうに双眸を瞬かせた。
「どうした、そんなところに立って。何かあったのか?」
「い、いえ…!ちょっとお茶でも貰いに行こうかなと思って」
「そうか、それなら今女中に頼んで持って来させる。取り敢えずお前は座ってろ」
「…分かりました」