第14章 紫電一閃
「そっか…まあよく考えればそうだよね。良かった、逆に普通の人も居るって確認出来て」
皆が皆そうであったら大変である。ちなみに佐助の言う両極端な人、というのは凪も本能寺の夜に会っているのだが、混乱を避ける為、敢えて名は出さずにおいた。
女性を見た目だけで判断するわけでは当然ないが、凪はこうして改めて見ても愛らしい分類になると佐助とて思う。故に、武将達も放っておけなかったのだろうと思えば、なる程、彼等も人の子なんだと何故かしみじみ思ってしまうのだった。
「…それにしても、さすがに光秀さんの御殿に忍び込むのは骨が折れそうだ」
「安土城もなかなかだと思うけど…そうだね。危ない事はして欲しくないな。外で落ち合えたり出来ればいいんだけど、しばらくは多分、誰かと一緒じゃないと出歩けないと思うんだよね」
片手を顎へ添え、些か深刻そうな面持ちで呟いた佐助に同意して考え込んだ凪は視線を畳の上へ落とす。
加えて、現在の凪の自室は光秀の隣室である。襖一枚隔てて光秀が居る状態で密会など出来るとは到底思わなかった。
(……なんか光秀さん、耳良さそうだし)
自分の鼻の事は棚に上げつつ、そんな事を考えているとは知る由もない佐助は顎にあてがっていた手を下ろす。
「ひとまず状況見て判断しよう。俺もまたしばらくは安土に滞在するから、見掛けたら気軽に声をかけて。…それからひとつ、君に重要な話があるんだ」
「重要な話…?」
「ああ、今日こうして会いに来た本題でもある」
突然居住まいを正し、真摯な表情へ切り替えた佐助を前に、凪は不思議そうな表情で双眸を瞬かせていたが、目の前に居る相手の様子に何事かを感じ取り、幾分緊張した様子で続きを待つ。
「────…実はワームホールの発生兆候が、消えたんだ」
「…それって、どういう…」
淡々とした声色ながら、明瞭な音を持って伝えられた佐助の言葉を耳にし、凪は虚を衝かれた様子で呟いた。驚きを露わにする様子の彼女を前に、幾分申し訳無さそうな面持ちを浮かべた佐助は、それでもしっかりと事実を伝えるべく面と向かって告げる。
「つまり…次に俺達がいつ帰れるかが、分からなくなった」