第14章 紫電一閃
薄いレンズの向こうで、佐助の思いの外切れ長な三白眼が見開かれる。あまり表情筋が動かないらしい彼のそんな表情は珍しく、凪も同じ様に目を瞬かせると、一拍置いた後で佐助は感心と感嘆が入り混じったような声を発した。
「凄いな、あの明智光秀が直々の護衛だなんて」
「そうなの、かな?」
元々佐助は歴史好きで、特に戦国武将をこよなくリスペクトしていると言っていた。その道の人ならではの感動がきっとあるのだろうと考えた凪は、いい機会だからと僅かに身を乗り出す。
「そうだ!戦国武将好きの佐助くんに、ちょっと訊きたい事があるんだけど…!」
「俺で答えられる事ならなんでも」
凪は密やかに、もし次佐助とゆっくり話せる機会があったならば、絶対に確認しようと思っていた事があった。
ちょうど良いタイミングだからと前置きをすれば、佐助はいつもの無表情の中へ見え隠れする自信を滲ませ、真っ直ぐに凪を見つめ返す。
「史実の中での明智光秀って女の人にモテるの?というか、戦国武将って手早い?」
「……なんだか君も、ある意味俺以上に大変な目に遭っているっていう事は、今の台詞で確信出来た気がする」
まあ要するにそういう事である。凪は常々思っていた。
ちょっと皆手が早いんじゃない?と。しかし本人達へ直で告げたところで、倫理観や貞操観念が異なるならば話し合いは無駄であろうと思ったので、それを第三者の立場に確認したかったらしい。
真剣な様子で双眸を覗き込んで来る凪を前に、自軍に居るとある武将を脳裏へ過ぎらせた佐助は一瞬彼女を案じるような眼差しを送った後、思案を巡らせる。
「明智光秀に関しては正直俺もあまり詳しい事は分からないんだ。というのも、彼の情報は後世にもあまり残されていないらしい」
「へえ、なるほど…」
光秀の情報が後世にもそこまで残されていない、というのは何故か凪の中でしっくりと来てしまった。そういった痕跡を残さず、闇の中へ溶けるようにして消えていくようなイメージが光秀にはある。
「ただ、女性への手が早いか…と言われるとひと括りには出来ないと思う。俺の知り合いにも両極端な人が居るくらいだし…」