第14章 紫電一閃
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────時は遡り、安土城の自室へ光秀により送られて程なく、凪は些か久々となる人物との対面を果たしていた。
「ようやく君とゆっくり話が出来るみたいで安心した。この前はお互い取り込み中だったし、君が偶然城に居合わせてる時間に忍び込めたのは幸運だったな」
凪の正面に正座した佐助は、変わりない様子の彼女を前にして安堵を覗かせると、ほんの僅かに口元を綻ばせる。
天井裏の板が軽く動き、そこから佐助の姿が降って来た時は何事かと瞬間的に身構えたが、よく考えればこの安土城へ堂々と忍び込んで来る気概のある者は凪の知る限り、佐助しか居ない。
摂津で偶然出会った事を除けば久し振りの顔合わせであり、同じ価値観を持つ唯一の相手と会話出来る事に喜んだ凪は、互いの近況報告をするべく話に花を咲かせていたのだった。
実は摂津から戻って来た当初も佐助は潜入を試みたらしいのだが、当時はお千代が凪にべったり張り付いていた為、その隙がなかったのだという。
ちなみに本日、お千代は女中達を取りまとめる仕事で色々と多忙らしく、傍で凪の相手が出来ない事を心底悔やんでいた。だが、そのお陰でこうして佐助と会う事が叶った為、凪は内心こっそりとお千代に向けて謝罪をしたという訳である。
「それにしても驚いたな。安土に帰還して早々、別の屋敷へ移る事になったなんて。詳しくは聞かないけど…摂津で色々あったみたいだな」
「うん、そうなんだよね。ちょっと面倒な人に目付けられちゃったみたいで…今は護衛を兼ねて、そっちにお世話になってるんだ」
「ちなみに、何処に住んでるのか聞いてもいい?」
先日決まったばかりの凪の護衛の件は、さすがの佐助でも情報を掴みきれていなかったらしい。二人はワームホールの出現時期などの連絡や確認を取り合う仲である。
そういった意味でも、有事の際の為に所在は明らかにした方が良いだろうと考えた凪は問いかけに対して頷いた。
「光秀さんの御殿だよ」
「………え?」