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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第14章 紫電一閃



「……ほう?まさかお前、覚えていないのか」

何となくとてつもない含みがあるような気がして、凪は内心で密やかに震えた。記憶がない間、よもやとんでもない事をしてしまったのではないかと背筋へ冷や汗を伝わせ、引きつりそうな面持ちを必死に保つ。

「や、その…広間を出たところまでは覚えてるんですけど、えーと…気付いたら朝で、いつ帰ったのかなとか色々不安になって。私、失礼な事とかしてない、ですよね?」
「………いや?何もなかったぞ」
「なんですか、その間!?」

しどろもどろな言い分を耳にし、光秀はたっぷりと間を空けた後で淡々と告げた。明らかに何かありました、と言わんばかりの沈黙へつい凪が反射的に突っ込むと、光秀は吐息だけで微かに笑いを溢し、長い睫毛を伏せて余裕な素振りを見せる。

「むしろ、そう訊いて来たお前こそ、何か思い当たる事でもあるんじゃないのか?」
「えっ!!?な、ないですよ!!」
「そうか。ならば互いの意見も一致するな」

思い当たる事、と言われて焦ったのは凪だった。
正確には、記憶を失くした件と直結しない夢の話(だと本人は思っている)なのだが、それが後ろめたさとなり、つい声が極端に上擦る。隙間から勢いよく首を左右に振る凪の姿を見やり、必死な様子へ僅かに双眸を眇めたが、すぐに光秀はいつもの笑みを貼り付けた。

「そうですね!一致します、普通に帰って来ましたよね…!」
「訊きたい事はそれだけか?」

何度も頷いて取り繕う凪を一瞥し、弧を描いた口元を崩さず首を緩く傾げた光秀が再度問いかけを投げると、彼女は一度唇を閉ざして逡巡する素振りを見せる。
特に急かす事もせず、しばらく凪の様子を眺めていた光秀だったが、やがて決心がついたらしい彼女が遠慮がちに視線を合わせて来た。

「……私、昨日変な寝言とか、言ってなかったです?」
「…ん?」

紡がれた言葉を耳にし、光秀は仄かな違和感を覚えて眉を寄せる。寝言と言って状況と照らし合わせ、考えれば行き着く先はおよそ一つしか存在しない。
その過分な可能性を思い至り、光秀は安堵したような、しかし苦々しい思いを押し殺し、内心で苦笑を零す。

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