第14章 紫電一閃
恥ずかしさで死ねるとはまさにこの事か。身悶えるような羞恥に潤んでしまいそうな目を必死に瞑ったまま、凪は今にも叫び出したい衝動をぐっと堪えた。何故なら隣にはおそらく、その相手であった光秀が居る。こんな状態を見られたら十中八九、吐かされるに違いない。
(しかもなんであんなやたら長いディープ!?もしかして私、欲求不満…!?)
青天の霹靂である。とはいえ、実は夢ではなく現実にその【やたら長いディープ】をかまされた訳だが、本人は己の妄想の産物だと思っているらしく、戸惑いと困惑に褥の上をごろごろと右へ左へ転がり、色んな感情をやり過ごそうとしていた。
そうして心の内を少しでも消化しようとしていた最中、何事かに気付いた凪はひたりとその動きを止め、今度は勢いよく起き上がる。
意識を飛ばす程酔った割に、二日酔いしない体質なのがせめてもの救いであるような気がした。
(…私、変な寝言とか言ってないよね…!?)
褥の様子から察するに、光秀は昨夜は少なくともここで寝てはいないらしい。酔っていたから気を遣ってくれたのかなと思いつつ、今度は何処で寝たのか、もしくは寝ていないのか、そちらの方に意識が向いた。
何故か割と鮮明に思い出せる夢の中、あられもない声──とまでは多分いかないも、何やら自分は色々声を発していた気がするのだ。それが少しでも寝言として漏れていたならば、非常にまずい。
(これは確認すべき?いやでもむしろ変に訊いたら、逆に内容聞き返されたりして…困る、とても困る…!)
護衛兼家主に対し、邪(よこしま)な妄想を無意識とはいえ繰り広げていただなんて、申し訳ないにも程がある。これは確実に墓場まで持っていく案件であろうと自分を納得させた凪は、そっと溜息を漏らして心を落ち着けた後、無意識であったのか指先で軽く唇へ触れた。
夢である筈なのに、何故かそこへ重ねられた光秀の唇の温度と感触がしっかり残っているような気がして、とくとくと鼓動が速まった。頬が火照り、こんなにも心臓が騒がしい。きゅ、と唇を噛み締めると、やはり自分ではない、別の温度が蘇って来る気がして、大きく頭(かぶり)を振った。