第14章 紫電一閃
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瞼の裏まで薄っすら射し込まれる明るい日差しを受けた感覚の後、遠くで鳥の鳴く声がささやかに鼓膜を揺らす。
小さな声を上げた後、無意識でごろりと寝返りを打った拍子に、箱枕から後頭部が滑り落ちて無情にも褥へ頭を軽く打った凪は、それによって覚醒した意識を鮮明にするべく、持ち上げた瞼を幾度か瞬かせた。
最初に視界へ映り込んだのは真白な褥である。昨日は隣でしっかりと寝ていた男の姿はそこになく、凪一人が広い褥を丸々占領している形となっていた。
(あれ……光秀さん居ない…。むしろ私、いつ御殿に帰って来たんだろ)
明瞭ではない思考を働かせる為、緩慢に身を起こせば、髪は下ろされ、白い襦袢姿のまま眠っていた事に気付く。視線を巡らせた先、衣桁(いこう)には昨日着ていた小袖や打ち掛け、帯や飾り紐などの一式がしっかりと掛けられており、自分でやった記憶が微塵もない凪は、次第に事の重大さへ気付き始め、段々と顔色を青くし始めた。
(というか!何なら大広間を出た後くらいからの記憶がさっぱりないんだけど…!?)
酔っていないと散々光秀に言っていたが、案外回ってしまっていたらしい。宴の場から退室し、光秀と二人になった事で一気に気が緩んでしまったのだろう、その後の記憶がどうにも面白いくらい、綺麗さっぱり微塵もない。
しかし、ふと凪はそれとは別に、思考の片隅にあった残像を思い起こして青かった顔を今度は真っ赤に染め上げた。
昨夜の記憶はさておき、意識を飛ばしている間に、なにやらとんでもない夢を見た気がする───いや、確実に見た。
(み、みつ、光秀さんと…キ…────)
忙しない鼓動がどくどくと脈動し、耳朶や目元を可哀想なくらい真っ赤に染めた凪が片手の甲で自分の唇を隠す。
とんでもなくリアルな夢の中、何故か光秀と濃厚にも濃厚を重ねた口付け(深い方)をしていた様を鮮明に思い出し、恥ずかしさに耐えられなくなった凪はそのまま横向きに身体をぐっと丸めながら倒れ込み、両手で頭を抱えた。
(無理─────!!!!)