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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第13章 再宴



廊下での小競り合いの最中、光秀に告げられた言葉を思い出したのだろう。凪が小さく呟きを落とす。
自覚がないのが困りものだが、凪は他の女にはない魅力がある。それは光秀が惹かれるきっかけとなった物怖じしない愚直な強さや、時に毅然とした様で立ち向かっていける芯の強さなど───おそらく乱世の誰もが見たことのない娘の生き方へ、どんな理由であれ、無意識の内に惹き寄せられてしまっているのかもしれない。故に、案じてしまう。

「ああ、そうだったな」
「でも私、別にそんなつもりはないです」
「お前にそのつもりがなくても、現に隙を衝かれている」

もっと男に対して警戒を持てと思う心と、そこに自分は入れてくれるなという矛盾した感情がじり、と胸の奥底の熱を焦がした。光秀の感情に気付かない凪はぶっきらぼうなまま突っぱねるが、切り替えされた言葉にはぐうの音も出ない。
繋いだ手をぐっと握り締めた凪が不服そうに隣で歩く男を見上げれば、薄ら灯りの元で銀糸をきらきらと揺らした光秀が口角だけを持ち上げた。

「……なんか、急に刺々しいですね。声が意地悪になりました」
「まさか。お前の気の所為だろう」

さらりと躱され、何も反論出来ない様子の凪を横目に、一度焦がれて種火が灯った心は宴の際で幾つも向けられた煽りを思い起こさせ、光秀の口を動かす。

「いずれにせよ、初心なお前は、男を上手く避ける術など持ち合わせていないのかもしれないな」
「なにそれ、私が経験少ない奴だって馬鹿にしてます?」

この場合の初心はある意味での褒め言葉に近いが、元より女性の扱いが上手い光秀からそう言われた事で、凪は悪い意味の方に受け取ってしまったらしい。
長い睫毛を伏せたまま薄く笑った光秀の端正な横顔を見て、凪は明らかにむっとした様子で顔を顰めた。普段から妙な負けん気を発揮して来る事は多々あれど、妙な絡み方はして来ない凪が、ここまで一つの話題に噛み付いて来るという事はやはり酔いが回っているのだろう。
闇の中でも夜目が利く光秀には隣に並び立つ凪の表情がはっきり見て取れる。物言いたげな強気の眼が、恐らく酒気を帯びている所為でゆらゆらと揺れていた。

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