第13章 再宴

「…でもまあ、その男が送り狼になったっていうのも分からなくはない。確かにこんな顔されてたら、どうにかしたくもなる」
「な、なんですか」

凪の中での警戒が幾ら高まろうとも、相手は現代まで名の知れた伊達男。端正な面持ちは男性としての色気も当然漂っており、隻眼で意味ありげな視線を流されれば、大抵の女性は転がってしまう事間違いなしである。
低く色めいた声で囁かれ、伸ばされた片手でさらりと髪をすくわれた凪が身を引けば、政宗は口角を緩く持ち上げて笑った。

「男は大抵皆、こういう顔に弱いって事だ」
「…極論過ぎでしょ」

こういう、とはつまり凪の淡く染まった何処か無防備な顔を指しているらしい。もはや何と言っていいやら分からない凪が言葉に詰まると、横からぼそりと家康が突っ込んで来る。正面を向いてきっちり正座したままである彼は片手に盃を持ちつつ呆れた風に瞼を伏せていた。

「そうやって余裕そうな顔してる奴に限って、案外呆気なく落ちたりするもんだ」
「はあ？何言ってるんですか、あんた。何でもそうやって直結させるの、本当迷惑なんですけど」

凪を挟んだ形で突如始まった政宗と家康のやり取りを呆気に取られた様子で見ていると、光秀が正面でくつくつと笑う。慣れているらしいその様子を見る限り、政宗のからかいの対象は何も自分だけでは無さそうだと、安堵なのかそうでないのかよく分からないまま納得した凪は再び盃を傾けた。
そんな凪を正面に捉えていた光秀は、先程よりも頬の赤みが増した事に気付き、内心で眉根を寄せる。本人は酔っていないと言うが、まったく酔わない体質でもないだろう。
やけ酒気味な凪の盃を傾ける速度と、呑み続けている酒の種類を思えば、突然落ちてしまう事も有り得る。

（……宴もたけなわとはいえ、凪の具合としては頃合いだな）

本日主に出されている酒は醸造が細やかな清酒であり、それ故に実はそこそこな度数である。甘口である事も手伝い、進みやすいといえばそうなのだが、呑みすぎてしまえば一気に回る代物であった。