第13章 再宴
「…え、酔ってないですよ?」
光秀の指摘に目を瞬かせた凪は、正面に座っている相手の顔を見つめて軽く首を傾げる。
両サイドに残した黒髪がその動きに合わせてさらりと零れ、白い頬へ軽くかかる様を見て、指先を伸ばした光秀がそれを払った。
「随分と顔が紅い。呑むのは構わないが、もう少しゆっくり呑め」
酔っていないと宣言する凪の頬は、上気したかの如く淡い桃色へ染まっていた。心なしか気の強そうな猫目もとろりと幾分溶けており、信長の伽羅香にあてられた時のような様にも似ている。薄っすら涙の膜を張ったように潤んだ眸は、真っ直ぐ見つめられると、そこいらの男が容易に勘違いしてしまいそうな気配すら漂わせていた。
登城前に拭った頬紅よりも色濃いそれは、まさに好いた男を懸想する女の顔色である。本人にまったくそこまでの自覚がないというのが些か困りもので、凪の無防備な表情を他の男へ晒すのは、光秀としては当然面白くない。
「酔ってはいないんですけど、割とすぐ顔色にだけ出ちゃうんです。意識はちゃんとはっきりしてますから、大丈夫ですよ」
顔色に出る所為で幾多の勘違いをされて来た凪としても、この問答は割と慣れていた。女友達同士の飲み会ではそういった意味でも気兼ねなく飲めるが、男性が混じる飲み会はその限りではない。
現代での男女混合の飲み会を思い出したのか、あるいは政宗の行為への苛立ちも手伝っての所為か、くいと盃を傾けた後で凪が眉根をむっと寄せる。
「この顔に出るって性質の所為で、飲み会…宴ではあまり良い思い出がないんです」
「……ほう?」
頬へかかった髪を払ってやるついでに、桃色に染まった滑らかなそこへ軽く指の腹を這わせた光秀が、呟いた凪の言葉に興味を示した。
凪の話へ耳を傾けつつ、光秀のとんでもなくさり気ない行為を見咎めた政宗の片眉が上がり、些か不満げに告げる。
「凪、光秀がそうやって触るのはいいのか?」
「突然口付けるのと顔触るのは罪の重さが違います」
「…だそうだ」
「いや、恋仲じゃないなら同じようなもんだろ」