第13章 再宴
「呑むの早いですね。大丈夫なんですか?」
「あまり酔いは回らない性質(たち)でな。回ったとしてもすぐに抜ける」
「へえ…」
そういえば会談時の酒はかなり度数が高そうな印象であったが、光秀はそれを飲んでもけろりとしていた気がする。
凪から注がれた二杯目の盃を傾けながら、ふと政宗へ視線を投げた光秀は眼を眇めたまま、そっと微笑を乗せた。
「せっかくだ。お前も凪に酌でもして貰ったらどうだ」
「………この野郎」
「政宗にするのは嫌です」
「って、おいおい…そんな怒るなよ。したかったから、しただけだろ」
凪以外は光秀が告げた言葉の意味を理解していた。
分かり切っていて敢えて煽った男に対し、政宗がふと苦々しい顔で低く声を発すると、間髪入れず横から凪の拒否の意が飛んで来る。憮然としたまま、再び自らも盃を持っている彼女へ意識を向け、肩を緩く竦めた政宗がおどけた調子で言った。
「したかったのは政宗だけで、私はしたくなかったです。というか、そんな簡単にするものじゃないでしょ。これだから武将っていうのは…!」
「ちょっと、武将でひとくくりにしないでくれる」
ぶつくさと文句を言う凪のそれに反応したのは意外にも隣に座っていた家康である。心外だと言わんばかりに軽く顔を顰め、淡々とした調子で少なくとも自分は違う、とひっそり主張した。
ぐい、と盃を呷ってはついに手酌で呑み始めた凪は既に怒り心頭故のやけ酒状態になりつつある。正面で凪の盃を傾ける速度を見ていた光秀は彼女の面持ちを正面から見据え、僅かに眉根を寄せた。
「…凪、お前酔っているのか?」