第13章 再宴
案じるように一言付け加え、傍にあった銚子を持ち上げた政宗に促され、凪は盃を差し出した。
傾けた銚子から注がれた透明な酒へ礼を告げ、返盃しようと政宗を見るが、彼はそれを求める様子は特にない。傍らへ銚子を戻した後、盃へちびちびと口を付ける凪を興味深そうに見ている。
そんな視線を受けて居た堪れない心地になりながら、ふと重要な一件を思い出し、盃を膳へ置いて政宗へ向き直った。
「そういえば政宗さん」
「政宗」
「え?」
呼びかけに対し、名の呼び方を訂正するよう言い直されれば、凪は一瞬何の意味か理解出来ず、双眸を瞬かせる。
瞬きの度に長い睫毛が上下する様は目元を印象付ける凪のそれをいっそう惹き立てた。
「政宗でいい、敬語も要らない。元々堅苦しいのは苦手だ」
「で、でも…さすがにいきなりは」
「呼ばれる本人がいいって言ってんだから、気にするな」
確かに政宗のこれまでの様子を見ると、なかなかにフランクな印象だ。堅苦しいのが苦手という相手へいつまでも粘り続けるのも良くないかと思い、凪は渋々といった風に小さく頷く。
「わかった……政宗」
「ああ。…それで、さっき何を言いかけたんだ?」
凪が了承し、呼び捨てで名を呼ばれた事へ満足げに笑った政宗は、先程自らが遮ってしまった話題を繋げるように問いかけた。
「あ、ええと…摂津に行く時、おにぎり作ってくれたんでしょ?ありがとう、凄く美味しかった」
「あー…そんな事もあったな。光秀の奴、ちゃんと飯食ってたか?」
「うん、途中の休憩で一緒に食べたよ」
摂津に向かう道中、政宗が持たせてくれたおにぎりについて、安土に戻ったら礼を言おうとずっと思っていたのだ。なんだかんだと色んな事が起こってしまった為、今日まで延びてしまったが、ようやく伝える事が出来て凪は安堵する。
真っ直ぐ伝えられた礼に軽く目を見開き、そうして柔らかく笑った政宗が思い出したように苦い顔をした。
政宗の様子から察するに、光秀の食への興味の無さは当然知るところなのだろう。無難な答えを述べると、大方意味は察したらしく、政宗はただ苦笑した。