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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第13章 再宴



「それで、今度何かその御礼をしようと思ったんだけど」
「律儀な奴だな、お前。…だが、そうだな。もし礼をしてくれるっていうなら」

何かを作ってお返しするか、あるいは別の方法にするかと思案しつつ述べていた凪の言葉を遮り、気にする事はないと政宗は緩く笑う。しかし、ふと思案げに首を傾げた後、何事かを思い至った様子で口角を僅かに上げた。
やがて、不思議そうに隣に居る男の顔を見つめていた凪へ、政宗が手を伸ばす。

「【これ】で十分だ」

鼓膜をかすめる低い音の後、後頭部へ回された手によって凪はぐい、と軽く引き寄せられた。そうして目前に迫った端正な男の顔が軽く傾いたと同時、唇に柔らかく暖かな感触が重なる。

「!!!?」
「…なっ!?」

声にならない声を上げた凪と、隣に居る所為で意図せず目撃者となってしまったのだろう、家康の短い声が遅れて響いた。目を閉ざす事も出来ず、ただ目の前で隻眼を瞼の裏へと隠した政宗の端正な面と吐息に凪の右手がひくりと動く。触れるだけで後は緩慢に離れて行く唇の隙間から零れた微かな吐息が濡れた凪のそれをかすめれば、電光石火の如く翻った片手が政宗の端正な横顔目掛けて振り抜かれた。

「おっと」

しかし、それは政宗の顔へ触れる事なく容易に手首を捉えられ、不発に終わる。面白そうに笑いながら隻眼を眇めた男が、勢いを殺されて動きを止めた凪の手首をそのまま引き寄せ、指先へ軽く口付けを落とした。

「やっぱ気が強いな、お前。ますます気に入った」
「な、なにをいきなり…!!?」

怒りと困惑に震える声のまま掴まれていた片手を引き戻し、反対の手で自らの口を覆った凪を前にしても、悪びれた様子が一切ない政宗が首を傾げる。

「何って、したいからしただけだろ」
「はあっ!?」

つい怒気混じりの声を上げた凪が眉間を深々と顰めて目の前に居る政宗を睨んだ瞬間、背後を通る足音が聞こえ、薄っすらとした影が頭上に降った。

「政宗、少々おいたが過ぎるぞ」

低く潤った声は聞き慣れた男のものである。銚子を片手に凪の正面へ胡座をかいて座った光秀は、口元へ緩やかな弧を描きながら告げ、視線を斜め前に居る政宗へ流した。

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