第13章 再宴
小さく零すと、隣で凪の横顔を見ていた家康はその分かりやすい表情へ微かに呆れを滲ませた。取り繕っているところはあるが、基本的に凪は感情が割と表に出る。
その単純さで、よく光秀の任務について行けたものだといっそ感心した家康を他所に、後方から近付いて来る足音の主を察し、面倒くさくなりそう、と胸の内で溢しつつ瞼を伏せた。
「ん?お前、まだそれしか食えてなかったのか?」
「あ、政宗さん。こんばんは」
顔を上げたと同時、背後から降って来た声は政宗のものである。最初こそ正面に居た筈の彼は別間に居る家臣達の元を回ってきたらしく、挨拶に軽く応えた後で凪の隣へ座ると、膳の様子を見て察したようにああ、と短く声を上げた。
「信長様にでも遊ばれてたか」
「何で分かったんです?」
「昨日の仕切り直しなんだ。大体検討は付くだろ」
取皿を手にしたまま不思議そうに首を傾げた凪に対し、政宗が小さく笑う。
昨夜の宴も割とぐいぐい来ていた政宗だが、あれは緊張で身を強張らせていた自分を紛らわせる為だったと理解していた凪は、一口分残っていた卵焼きへ視線を向けてから政宗を見た。
「今日のお料理も政宗さんが作ったんですか?」
「ああ、信長様が食材を色々手配してくれたお陰で、なかなか作り甲斐があった」
「昨日のもそうだったけど、今日も凄く美味しいです」
膳に並んでいるものは確かに昨日よりも豪華である。
蛸や鯛の刺し身、海鮮系の酢の物など、あまりこの時代に来てからは目にする事のないものばかりだ。信長が食材を仕入れるようにしてくれたという事はやはり、色んな意味での労いと歓迎が含まれているのだろう。それを感じて気恥ずかしくもあり、嬉しくも思った凪が素直に笑って告げれば、政宗は幾分驚いた様子で隻眼を瞠った。
柔らかく綻んだ笑みは昨日まではついぞ見る事の出来なかったものであり、それが凪の素の笑顔なのだと知った政宗はしばし言葉を忘れる。
何かを怖がり縮こまっているより、そうして自由に笑っている方がこの女には似合っていると直感的に感じたのは、これまで見た彼女の表情の中で、一番愛らしいと思ってしまったからかもしれない。