第13章 再宴
上座から戻る途中、秀吉と三成の元へ立ち寄り二人へ酌をすると案の定、日中の事に関して身体を心配された。
三成も秀吉からそれを伝え聞いていたらしく、心配そうに声をかけてくれたが、一過性のものであって今はまったく何でもないと告げると、二人は安心したように笑ってくれた。
そういった経緯もあり、凪からも日中の件を詫びようとしたのが、結局それは秀吉に封じられ、他愛のない話を交わしてから凪は再び自分の席へ戻って行く。
「……はあ」
自分の席へ戻り、ようやくひと仕事終えたとばかりに小さな吐息を漏らせば、隣で煮物の取皿を手にした家康がちらりと視線だけを寄越して来た。
「随分遊ばれてたね、あんた」
淡々とした、あまり関心のなさそうな家康の淡白な声を聞くのが酷く久々であるような錯覚に陥った凪は、俯きがちになっていた顔を上げて左隣りへ向き直った瞬間、視界へ入り込んだものへ目を見開く。
「い、家康さん……その赤いものは何ですか」
「何って、人参だけど。逆にこれが他の何に見えるっていうの」
「……あ、そっか人参かあ…(人参の赤さが凄く際立ってる…)」
驚いた様子の凪が向けた視線の先を察し、家康は怪訝に眉根を寄せると綺麗な箸使いで一口大にそれを切り分け、軽く持ち上げた。さも当然かの如く告げられた煮物の具である人参は、目にも鮮やかな真紅へと変貌を遂げている。
念の為自分の膳の煮物を見たが、色の彩度が明らかに異なっていた。
「あんたも少しは何か腹に入れたら。酒だけ飲んでると身体壊すよ」
「…そうですね、色々気が抜けたらお腹空いて来たかも」
よく見れば家康の膳に乗っている料理はどれもこれもが鮮やかな赤へ染め抜かれており、味覚は人ぞれぞれだからなと己を納得させた後、投げかけられたそれに頷く。
信長の元で遊ばれ、なんだか気力と体力が一気にすり減った事もあり、宴が始まってすぐはあまり感じていなかった空腹感がが過ぎった事に気付き、膳の上に置かれた箸を手に取った。
酒に合うよう味付けをされている料理は昨日食したものと同じような雰囲気を覚え、これも政宗が手を加えたのかと考えながら、取皿へ取った卵焼きを切って口へ運び、だしの効いた味わいについ表情を綻ばせる。
「美味し」