第13章 再宴
両手が金平糖で塞がっている所為でまともな抵抗も出来ず、膝立ちをしている事もあって上から信長を見下ろす体勢となった凪に対し、信長が焦る様を楽しむかの如く笑い混じりに言った。ぐい、と更に身を寄せる形で引き寄せられると身体が信長へ密着し、目を焦りと羞恥から白黒させて凪が必死に言い募る。
「では、俺に寄越せ」
刹那、囁くかの如く短い一言が鼓膜を打ち、その内容へ驚いた様子の凪が虚を衝かれ、動きを止めた。
「信長様…金平糖好きなんですか?」
「ああ、俺の好物だ」
「え、なにそれ可愛い」
「……なに?」
不思議そうに問われるから何事かと思い、肯定すれば凪がつい素で感想を漏らす。大の男が可愛いと言われて喜ぶ筈もなく、僅かに眉間の皺が寄せられるのを目の当たりにし、慌てて取り繕うと、彼女はそれまでの慌てようを忘れたかの如く片手へ数個の金平糖を移動させ、反対の手で小さな粒をつまみ上げた。
「どうぞ、信長様」
「……貴様、急に余裕になりおったな」
「気の所為です」
心なしか楽しそうに笑った凪を目にし、若干声を低めた信長であったが、どうやら咎める気はないらしい。
彼女の白く華奢な指で近付けられた小さな粒を、唇を開けて迎え入れればころん、と先程凪にしたように口内へそれが転がり込んで来る。
よく口に馴染んだ甘さと、別の何かが口内へ滲んだような気がしたそれを、信長は意図的に奥歯でかり、っと噛み砕いた。
「残りも持っていけ。貴様の為に用意させたものだ」
「こんなにたくさん…!ありがとうございます」
最初から巾着袋ごと全てを渡すつもりだったのだろう。腰を捉えていた腕を外した信長が膳の上に置いていた水色のそれを持ち上げ、凪へ渡す。金平糖を数粒乗せた方とは反対の手で受け取り、一度には食べ切れないからと袋の中へ戻した後、凪は手の中の重さへ嬉しそうに笑った。
彼女の笑みを見やり、微かに口元を笑ませた信長に戻っていいと告げられ、袂に金平糖の入った巾着を仕舞うと凪は再度礼を紡いだ後で上座を後にする。