第13章 再宴
果たして一体何なのかと首を傾げた凪を他所に、女中が差し出す盆から巾着袋を受け取った信長は、その手にあまり似合わない水色を貴重として金や銀の糸で豪華な刺繍が施されているそれを持ったまま凪へ顔を向ける。
「凪、手を出せ」
「手?…はい。こうですか?」
言われるがままに、片手では何となく失礼かと思い、両手のひらを上にした状態でくっつけ、信長の前へ差し出した。
口を緩めた巾着を傾け、手のひらの上で軽く振れば、ころころと色とりどりな小さい星型の粒が転がって来る。
見覚えのあるそれらを前に、凪の双眸が見開かれた。
「金平糖だ…!」
「貴様に似合いの菓子だろう」
「私に似合うかどうかはさておき、ありがとうございます」
巾着の口を絞って閉じた信長がそれを膳の上へ置き、嬉しそうに顔を綻ばせる凪へ告げる。素直に発せられた礼を耳にしつつ、せっかくだから戯れておくかと指先を伸ばして小さな淡い桃色の粒を凪の手のひらから拾い上げた信長はそれを彼女の唇へと近付けた。
「!?」
「それは褒美だ。口を開けろ、俺が直々に食わせてやる」
「え、あの……んっ」
面白そうに笑う信長に対し、公衆の面前でいわゆる【あーん】は恥ずかしいと拒否の意を伝えようとした瞬間、指先が唇へ触れ、そのまま小さな砂糖菓子をころりと押し込まれる。
すぐに離れていった指がせめてもの救いであり、物言いたげに眉尻を下げた凪へ向け、信長は笑みを緩く刻みながら緋色の目を眇めるに留めた。
ころころと舌先で転がした金平糖はほの甘く、噛んでしまうのが何となく勿体ない。気恥ずかしさにほんのり耳朶を染めた凪を目にし、信長がふと思い付いた様子で片腕を伸ばした。
「凪」
「ちょ、わ…!?溢れる…っ」
名を一言だけ呼んだ後、腰ヘ腕を回した信長がぐいと凪の身体を引き寄せる。反動でつい膝立ち状態になった彼女は手の中の金平糖が溢れないよう気を付けつつ体勢を整え、信長の片腕により抱き込まれる形となった。
「ち、近いです信長様…!」
「先程はもっと近かっただろう」
「それはそうかもですけど…っ、あの、金平糖溢れちゃうので…!」