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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第13章 再宴



先日と同じように呼び付けられたが、昨日のような言い知れぬ威圧は不思議と感じなかった。否、信長と相対するのは緊張するものの、それは周りからの重圧と好奇も手伝っての事である。今は最初の時程、信長自身に対して畏怖というものを覚えはしない。それはおそらく、天主でのやり取りが影響しているのだろう。

命じられ、立ち上がるとしっかりとした足取りで御前へと出る。視線で促されれば、脇息が置かれている右側ではなく、左側へ呼ばれた。
胡座をかいた状態で脇息に肘を置き、頬杖をつく体勢でいた信長は膳の上へ置かれた空の盃へ手を伸ばすかと思いきや、その腕を傍に来た凪へ向け、指先で顎をすくい上げる。

「……ほう?確かに珍しい化粧(けわい)だが、悪くはないな」

横へ軽く身を乗り出した体勢で自ら顔を寄せた信長が、間近に凪を覗き込み、緋色の眼を眇めた。
傍へ寄った時から漂っていた伽羅の上品な香がいっそう濃くなった事に一瞬ぼんやりしそうになった凪だったが、必死に意識を奮い立たせて礼を紡ぐ。

「あ、ありがとうございます…」

天主程の濃さではないが、そこで普段生活している信長の全身からは芳しいえも言われぬ天上の香りがしており、こうして傍に寄るだけで、やはり凪の意識を浮つかせた。
長い睫毛で縁取られた黒曜石の如く艶を帯びた零れんばかりの眸を見つめ、とろりと溶けてしまいそうな様の理由を知っている信長としては興が乗らぬ筈がない。
すくい上げた顎の僅かに上、昨日目にした時よりも艷やかで熟れた果実を思わせるかの如く柔く、ふっくらした唇へ視線を落とし、そのまま顔を寄せた。

「…っ、の、信長様…!?」
「動くな」

精悍且つ端正な面立ちがすい、と近付く様子に驚き、咄嗟に身を引こうとした凪が戸惑いと共に発した声を意に介さず、短い一言で動きを封じ込めた信長の吐息が濡れた唇を掠める。
凛とした明瞭な音ではなく、秘め事を囁くかの如く控えた声色は、凪だけにしか聞こえていない。
ほんの僅かでもどちらかが動いてしまえば触れ合ってしまいそうな唇の距離感に目を白黒させている彼女を、実に愉快そうに見た男はそのままほんの僅かに視線を横ヘ流した。

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