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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第13章 再宴



勝手に行って下手を踏む事は避けたいと考えていた凪を横目に見た隣の席の男───徳川家康は、おもむろに傍へ置かれた銚子を持ち上げ、凪へ軽く向き直る。

「ほら」
「え?」

短い言葉で促され、一瞬きょとんと双眸を見開いた凪は持ち上げられた真紅の銚子と家康を交互に見た。
突然の事過ぎて意図を察せないでいる凪の表情を見つめ、端正な面立ちを軽く顰めては、何処か呆れを含んだ翡翠の眼差しを眇める。

「え、じゃなくて。盃、出しなよ。飲めない訳じゃないんでしょ」
「……あ、はい!よろしくお願いします」
「何それ。酌する相手にそんな事言うなんて、初めて見た時から思ってたけど、あんた変わってるね」
「そうですか?なんというかこう…条件反射ってやつです」

家康が言わんとしている事をようやく汲み取り───正しくは酌をしてくれるという意は最初から分かっていたが、家康がそんな事をしてくれるとは思わず、当惑していた凪が膳の上の盃を両手で持ち、彼の前へ差し出した。
勢い余って発した言葉にも呆れの眼差しが送られ、家康がそっと銚子を傾ける。注ぎ口からは透明な清酒が注がれていき、適度なところで家康が銚子を置いた。

「じゃあ、いただきます」
「どうぞ」

意外にも一言一言へ律儀に返してくれる事へ、これまでの家康への印象を改めると、凪は香りの良い盃へ唇を寄せ、一口嘗める。口当たりの良い甘口な清酒は飲みやすく、とても美味しかった。昨夜は酒を飲む間もなかった為、乱世へやって来て最初の酒である。

「美味しい…」

両手で盃を持ったまま小さく呟きを溢した凪の姿を家康が横目で捉えた。横から見ると黒々とした長い睫毛が更に強調されたような形となり、盃へ口を付ける度にふわりと伏せられる様がやけに大人びて見える。
見た事のないやり方の化粧(けわい)だが、彼女の大きな猫目が際立ち、印象深くしている様を見ると確かによく似合っていた。
初めて目にした時は酷く所在なさげであったが、昨夜の一件を経て変わったのだろう、まだ些か緊張こそ窺えるが、昨日のように目も当てられない状態というわけではないらしい。

「…あ、じゃあ私も。家康さん」
「……え?」

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