第13章 再宴
凪の手には今度こそと新たに煎れられた湯呑みが二つと、先程持っていった重箱が乗った盆がある。
広げられたものを踏まぬよう気を付けつつ凪が文机についている光秀へ近付き、邪魔にならない場所へ湯呑みを置いた。
「今度こそ、どうぞ」
「すまないな、いただこう」
持って来れず、待たせてしまったとでも思ったのだろう。
最初に茶を頼んだ時は口実であった為、特に気に留めていなかったが、凪は何だかんだと気にかけていたらしい。
せっかく煎れたてを貰ったからと、湯気の立つそれへ手を伸ばし、軽く口を付ける。てっきり湯呑みを置いたら部屋へ戻るものと思っていた凪は両膝をついて正座したまま動こうとせず、果たして何かあったかと光秀が湯呑みを置いて視線を向けた。
「八瀬達には渡せたか?」
「ちゃんと渡せましたよ。皆さん美味しいって喜んでました」
厨へ顔を出すと、八瀬を始めとした本日の厨番の家臣達が集まって来て口々に心配をしてくれたのだった。光秀の咄嗟の判断で目眩持ちというステータスを計らずしも得てしまった凪だが、【目】の事が言えない以上、目眩持ちを通すしかない。
騒がせてしまったお詫びにと秀吉から貰った大福をお裾分けすると皆一様に喜んでくれたというわけである。
そして今、重箱の中には最後の一つとなる大福が残された状態になっていた。
凪の返答を耳にしておおよその事を察した光秀の口元に弧が描かれる。それを目にした後、凪は傍らに置いた盆の上に乗る重箱の蓋を開けて入れ物を持ち上げ、光秀の傍に差し出した。
「これは光秀さんに」
四角い入れ物の中にぽつんと一つ残された大福を目にし、光秀は軽く双眸を瞠る。よもや自分の分として残して来るなど思わず、気持ちだけを受け取ろうと光秀が口を開こうとした瞬間、まるで遮るように凪が告げた。
「俺はいいからお前が食べろ、は無しですから」
「…俺の言葉を先んじて封じるとは、お前の頭も少しは成長しているらしい」
「この状況なら、言われる事大体分かりますよ」
到底感心しているようには見えない様子で可笑しそうに告げると、憮然とした面持ちの凪が言い切る。