第13章 再宴
「か…、かわいい…っ」
実はふわふわもふもふが大好きな凪である。
そもそも動物全般を好む凪だが、ふわふわもふもふは別格だ。頬をほんのりと紅潮させ、黒々した目を心なしか輝かせた凪は、そわそわした様子で光秀を見る。
暗に触っても良いかといった意図の視線であると容易に理解出来るそれへつい笑いを溢しそうになりながら、光秀は片手でちまきを促した。
「急に触って怒ったりしないですか?」
「さあ、それはお前次第だな」
緊張した様子で手を伸ばし、光秀がしていたように指先で耳裏をくすぐれば、ちまきは先程そうしていたように目を細めて自分からぐりぐりと頭を擦り付ける。
「かわ…っ!!」
暖かく柔らかな感触に言葉にもならずに震えれば、光秀はどこか感心した様子で顎へ片手をあてがう。その間も凪とちまきはもふもふと戯れていた。
「…珍しいな。家臣にもまったく懐いていなかった筈だが」
「そうなんですか?懐いてくれたんなら嬉しいなあ」
庭の手入れがてら家臣達もちまきとよく遭遇するらしいが、こんなに積極的に撫でられに行くちまきは見た事がないという。それはそれで純粋に嬉しくひとしきりもふもふを堪能すると、撫ぜられる事に満足したちまきがふわりと尻尾を揺らして何処かへ去って行った。
「お家に帰ったのかな」
「またその内、気が向けば顔を出すだろう」
「じゃあそれを楽しみにしてます」
既に姿のないちまきは、別の場所にあるねぐらにでも戻ったのだろう。時折気まぐれに顔を出す為、またその内会えると言われれば凪は嬉しそうに笑った。
やがて、そろそろ廊下も片付いた頃だろうと見当をつけた彼女は身を翻して自身の部屋に戻り、座布団を片付けた後で空の湯呑みと秀吉が持ってきた重箱を抱える。
「ちょっと八瀬さん達のところ、行ってきます」
「ああ」
去って行く凪の後ろ姿を見送り、微かに吐息を漏らして笑った光秀は立ち上がると自らの文机の前へ戻った。
昨夜の内に終えていた仕分けのお陰で処理に時間は掛かっていない。書簡を開き、墨へ筆を馴染ませた後、すらすらと文を綴ってしばらく、廊下の向こうから近付く物音に気付き、その軽い足音から凪のものだろうと推測したと同時、襖が開かれた。