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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第13章 再宴



夜半に暗がりで灯りを点け、文を色々としたためていた事は知っていたが、その内のいずれかが自分の事を家臣達へ知らせる文であったのだと気付き、凪は無性に恥ずかしくなる。
そんなにも前から自分を気遣い、考えてくれていたのかと思うと、素直に嬉しかった。

「…そういえば、この御殿って女中さんとか見ないですね」

気恥ずかしさを誤魔化すように辺りを見回し、昨夜から密かに気になっていた事を八瀬へ問いかけると、彼はああ、と合点がいった様子でひとつ頷く。

「ここには女中は居ませんから。厨番も俺みたいな若い奴等で当番制にしてるんです。後は九兵衛さんが居る時は、あの方が仕切ったりもしますよ」
「確かに摂津で夕餉の用意してくれてたもんな…。当番制だって言っても、他にも皆さんお仕事あるんですよね?私も手伝ったりしちゃ駄目ですか?」
「凪様が、厨番をですか?」

何故女中が居ないのか、といった点まで解決する事はなかったが、あまり突っ込み過ぎるのもどうかと思い、ひとまずこの御殿に女性が自分以外存在しないという事を認識した凪は、八瀬の言葉に首を捻った。
職探しは別にするとしても、何も御殿でしないというのは気が引ける。家賃とは別の問題として、何か手伝える事があれば、と午前中に掃除をしている家臣へ声をかけたら全力で遠慮された為、機会を窺っていたのだ。

凪の言葉を反芻し、双眸を瞬かせた八瀬は窺うように奥で仕込みをしていた他の当番達を見やる。
彼らも基本的には厨を仕切っているらしい九兵衛の指示に従っているらしく、勝手に決めるわけにはいかないと告げて、後日確認を取ってくれると約束してくれたのだった。

(…九兵衛さんに頼み込もう)

決定権が九兵衛にあるのならば、本人に頼み込む他ない。
色良い返事をすぐに出来ず申し訳なさそうな家臣達へ首を振ると、ちょうど湯が沸いたらしく、湯を汲みやすい位置へ茶釜を八瀬が移動させてくれた。
摂津の宿で煎れたのと同じ要領で二人分の茶を煎れ、湯気の立つそれを漆塗りの盆の上へ乗せると、家臣達へ微笑ましそうな視線を向けられながら厨を出る。
八瀬を含む彼らへ会釈する形で挨拶をし、奥の棟へと歩き出した凪は、両手で盆を持ちながら視線を廊下の先へ投げた。

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