第13章 再宴
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────…時はほんの少しばかり遡り、二人分の茶を煎れ直す為、厨へと向かった頃。
厨には夕餉の仕込みや保存食を仕込んでいる厨番達がせっせと仕事をしており、その中には凪も知る八瀬の姿があった。
凪が顔を覗かせると、仕事に勤しんでいた家臣達は一様に歓迎してくれ、何かあったのかと問われるまま、光秀に頼まれて茶を煎れに来た、と用件を告げれば何故かとんでもなく感動されてしまったのだが、凪にその理由など分かる訳もない。
幾つか用意されている光秀用の湯呑みの中から、ぜひお好きなものを選んでください、と言われたので凪が選んだのは淡い水色を帯びたごくシンプルなものだったのだが、それを手に取ったと同時、感極まった、あるいは感動した様子で拍手され、彼女はそっと内心で苦笑した。
(光秀さんの家臣さん達ってなんかこう…最初と印象違うな。もっと取っ付き難そうな感じだったけど、実際はそうでもないっていうか…)
むしろ一喜一憂の様が面白いし、とても友好的である。
茶葉を用意した後、釜戸を使っている途中だからと湯を沸かしてくれている八瀬が、沸騰するまでの間に話し相手となってくれていた。
「……え、じゃあ昨日御殿に来る前から、家臣さん達って私が来る事知ってたんですか」
「そのようです。事前に光秀様から文が届いていたらしく、御殿内の家臣は皆お帰りを楽しみにしていたみたいですよ」
「知らなかった…光秀さん、いつの間にそんな事…」
「光秀様は色々隠し事が多い方ですから」
「…ふーん?」
昨夜御殿へ訪れた時、物珍しそうな視線こそ受けたが、誰一人凪について尋ねなかった事も、光秀が説明をしなかった事も納得がいった。
文で伝えていたのならば、いちいち訊く必要もないだろう。
歳が割と近いという事と、顔を合わせるのが初めてではないという事もあり、八瀬とは比較的打ち解ける事が出来た凪は、彼の話へ相槌を打ちながら思考を巡らせた。
(……ん?それじゃ、光秀さんって帰り道よりも前に連絡してたって事?護衛をするって考えたのは、もしかして)