第13章 再宴
凪が茶を煎れに厨へと向かってしまえば、その場に残されるのは秀吉と光秀の二人だけである。
しばらく無言のままで居た二人だったが、最初に口火を切ったのは意外にも光秀の方であった。
「何か言いたい事があるような顔つきだな」
伏せていた視線を右隣りへ座る男へ流し、相変わらず貼り付けた笑みをそのままに問いかければ、秀吉は面持ちに剣呑な色を浮かべた後、一度瞼を伏せて己の感情を落ち着けているのだろう、そっと細い吐息をひとつ零す。
やがて眸を覗かせた後で、じろりと睨(ね)め付けるようにして光秀を射抜いた。
「わざと凪に席を外させたお前が言うな。……まあ確かに、お前には訊きたい事が山程ある」
「手短に頼むぞ。いつまでもあの娘を厨に留めておく訳にもいかない」
秀吉が何かを訊きたがっている事など、相手がこの部屋へ足を踏み入れた時から光秀には透けて見えていた。それを凪の手前口にせずに居たのだろうという事も、加えて言えば、お節介且つ妙なところで勘の鋭いこの男が言わんとしている内容も、大まか理解してはいるが、わざわざ問われぬ前に話す必要もないと素知らぬ振りを通していたのだ。
まあ、そんな自分の思惑も地味に長い付き合いになる秀吉相手では気付かれているのだろうが。
飄々とした態度をあくまで崩さない光秀に対し、諦めた様子で再度溜息を落とした秀吉は、一度視線をぐるりと凪にあてがわれた室内へ巡らせてから、再び食えない男を見やる。
「…お前、一体いつから準備していた。信長様へ護衛を申し出た後でここまでの調度品を揃えられる筈がない。まさか、御伺いを立てる前から事を勝手に進めてたんじゃないだろうな?」
「あれこれと憶測を立てるのは勝手だが、そういう事は見て見ぬ振りを通すものだぞ、秀吉」
秀吉の指摘の通り、凪へあてがわれた自室は何もかもが揃い過ぎていた。
置かれている華美過ぎない、しかし品の良さを思わせる調度品は明らかに女物としてあつらえたものであり、真新しい畳独特の香りも、完全にこの部屋が手を加えられた後だという事実を表している。