第13章 再宴
「凪、すまないが茶を煎れて来てくれないか」
「え?」
突如として内容の切り替わった話に、凪が不思議そうな面持ちで双眸を瞬かせながら首を傾げる。ぶつかり合った金色の眼を前に、ふと秀吉と二人だけで話さなければならない事でもあるのでは、と思い至った彼女は了承の意を伝えるように頷いた。
「分かりました。秀吉さんはおかわり、大丈夫ですか?」
「あ、ああ…俺は大丈夫だ。ありがとう」
「じゃあ、私も少なくなって来たので一緒に煎れて来ますね」
早く戻るよりは少しばかり時間を空けた方が良いかもしれないと気を回し、半分以下に減っていた自身の湯呑みを手にして、そのまま部屋を出る。
大量の書簡や文が置かれた文机の上の空になった湯呑みも手にし、入り口の襖を開けると不意に背後から短く呼びかけられた。
「凪」
「はい?他になにか用事あります?」
鼓膜を打って呼び止めたのは光秀であり、低く耳に馴染む音へ振り返り、用件を訪ねた凪へ男は瞼を伏せ、ゆるりと首を振る。やがて、緩慢に覗かせた金色の眼を眇めると口元へ微笑を乗せた。
「迷子になって泣きべそをかくなよ」
「かきませんよ!迷ったら家臣の方に訊きます。八瀬さんとか!」
名と顔が完全に一致しているのが、まだ九兵衛と八瀬しかいない為、九兵衛が居ないと必然的に出てくるのは八瀬である。
喉奥でくつりと低く笑った光秀へむっと眉根を寄せた凪は、そのまま憮然とした面持ちで部屋を後にしていった。