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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第13章 再宴



「…長旅、大変だったな。特にあの光秀について行くなんて、普通の女なら絶対音を上げるところを、お前はしっかりとやり遂げた。だから、これは俺からのご褒美だと思って受け取ってくれ」
「ご褒美なんてそんな…!実際私、ほとんど光秀さんに助けて貰ってばかりだったので…。でも、そう言って貰えるのは嬉しいです。ありがとうございます」

労いの込められた柔らかな声色を前に、凪は思わず胸の前で両手を振る。謙遜でもなんでもなく、摂津では光秀に助けられてばかりであったし、役に立とうとした結果、結局足を引っ張ってしまった事もある。
けれど、真っ直ぐに伝えられる秀吉の言葉は純粋に嬉しくもあった。認めて貰えたと事実をまだはっきりと呑み込む事は難しいが、秀吉の気持ちに偽りがない事だけは分かる。
故に、凪は今回は素直に彼の言葉を受け取る事とし、柔らかく笑みを綻ばせた。

「どう致しまして。…ほら、せっかくだからひとつ食べてみたらどうだ?」
「じゃあ…えと、いただきます」

重箱を持ち上げた状態で取りやすいよう凪の方へ近付け、軽く傾けた秀吉に促され、小袖の袖口を軽く押さえて真っ白な大福を手に取る。
両手で持ったそれは柔らかくもっちりとしていて、食べる前からその食感を伝えてくれているようだった。
白い打ち粉が適度にまぶされたそれを一口食べると、柔らかな餅と適度な甘さの餡が溶け合い、口内を満たす。
この時代は基本的に出来たてか、その日中に食す事を前提にしている食べ物ばかりである所為も手伝い、つきたての餅独特の柔らかさが際立っていてとても美味しかった。

「…美味しい」

重箱を真ん中に置き、正面で双眸を輝かせた凪を見て、秀吉は安堵した様子で口元を綻ばせる。まだ完全に砕けた対応ではない所為か、もしくは接している時間の長さか。
光秀に対するようなはっきりした物言いが凪に見られない所為で、少し大人びた印象を抱いていた節があった秀吉だが、こうして甘味を食べている姿は普通の、年相応である娘と何ら変わりはない。
どうやら気に入ってくれたらしい大福をもう一口含んだところで、淡い色の唇の端に白い打ち粉がほんの僅かついている事に気付き、つい秀吉は笑みを溢した。

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