第13章 再宴
「…ところで凪、本当にこの部屋に住んで大丈夫なのか?もしお前が遠慮して言い出せないでいるなら、俺があの馬鹿ぶん殴ってでも別の部屋用意させてやるぞ」
「すぐに手が出る男は嫌われるぞ、秀吉」
「余計なお世話だ。そもそも、俺がそんな事する相手はお前くらいなもんだ。黙って仕事してろ…!書き損じても知らねえぞ」
「生憎とそれなりに器用なものでな」
(……仕事しながら会話についていけるって凄いな、光秀さん)
どうやら秀吉は凪の現状を案じ、様子を見に来てくれたらしい。光秀と犬猿の仲という事や、秀吉から見た光秀の人となりの事もあって、酷い扱いをされていないかの抜き打ち調査…といったところであろう。
やはり部屋の件が気になるらしく、全力で心配そうに眼差しを向けて来る秀吉に対し、凪は小さく首を振った。
凪の座った位置からでは光秀の姿は襖に隠れて見えないが、秀吉の位置からは互いがしっかり認識出来るのだろう。時折挟まれる応酬に笑いを堪えつつ、彼女が口を開いた。
「本当に大丈夫ですよ、豊臣さん。日当たりも良いしお部屋の広さも十分過ぎます。家臣の方達も皆さん優しいですし(謎の微笑ましそうな視線も向けられるんだけど…)」
はにかんだような笑みを浮かべた凪を目の当たりにし、秀吉は僅かに目を瞠った後、しばらく言葉を呑み込み、やがて柔らかく笑う。
「……そうか」
出会いのきっかけがきっかけであった為、秀吉へ向けられる凪の視線は気まずそうであり、窺うような、あるいは若干の怯えの色を帯びたものばかりであった。
当然の事だが、大の男であり、武器を持つ相手へ疑念を抱かれていた凪にしてみれば、良い思いはしなかっただろう。素直に悪い事をしてしまったと思う反面、それでも自らへ笑みを見せてくれるようになった事は、秀吉としては純粋に嬉しかった。
光秀がどのようなつもりで凪の部屋をここへ定めたのかは分からないが、彼女自身が嫌がってるわけでないのならば、秀吉がこれ以上口出しするのは無粋であるし、何より気に入っていると言った彼女の心を傷付ける事にも繋がる。