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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第13章 再宴



自分を訪ねて来てくれたのだからと茶を用意する為に凪が足を踏み出せば、襖から一度片手を離した光秀が凪を引き止める。
黒々とした双眸を丸くした凪へ視線を投げつつ、光秀は口元へ微かな笑みを乗せ、先程までのやり取りとは異なる穏やかな声色を発した。

「八瀬に用意するよう頼んである。お前はこの男の相手をしてやれ。……律儀にも、仕事の合間を縫って顔を出したようだからな」
「お前なあ…っ」

悪戯に眇めた双眸のまま紡がれた光秀のそれは真実だったのだろう。若干むず痒いような面持ちで眉根を顰めた秀吉へ片手をひらりと振り、文机側の襖をとん、と閉める。そのまま袴の裾を翻して自らの定位置へと戻って行った男を何とも言えない表情のまま眺めた秀吉の前に、凪が顔を覗かせた。
中央の既に開いたままであった襖から姿を見せた彼女は、二人分の座布団を部屋の中央へ用意し、そこへ秀吉を招く。

「どうぞ。…えーと、いらっしゃいませ?」

座布団を手で指し示し、何というべきか迷った挙げ句、疑問形で告げれば、凪の部屋の敷居を跨いだ秀吉は何処か可笑しそうに笑った。

「はは…っ、なんだそれは。正直まだ納得はしてないが…お前の部屋なんだろ?なら、もっと堂々としてもいいんだぞ」
「うーん、まだ一日も経ってないから実感がなくて」

座布団へ腰を下ろし、胡座をかいた秀吉に続いて同じく正座した凪は目の前の屈託ない笑顔に、内心微かな安堵を零す。昨日、真っ直ぐに謝ってくれた秀吉に対してはどうしてもまだ完全に砕ける事こそ出来ないが、自然と話は出来るようになって来たらしい。
あれだけしっかりと謝ってくれた相手に不自然な態度を取るのもどうかと思っていた為、すらすらと会話が出て来るのは助かった。というよりも、むしろ秀吉がそう話題を振ってくれているような気がして、実直で気遣いの出来る人柄であると改めて理解する。

程なくして八瀬が部屋へ入り、新しい湯呑みを三人分置き、空の湯呑みを凪と光秀の分だけ回収して立ち去った。
お茶を進めると礼を紡ぎながら手を付けた秀吉は、ふと湯呑みを置いて案じるように眉尻を下げる。

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