第13章 再宴
宴の刻限に合わせて七つ半(17時)頃には御殿を出発すると予め言われている為、それより前に着替えて髪を整え、化粧をすればいいかと考えていた凪は極力電池を消費しないよう気を付けつつ、スマホの画面を点灯させて時刻を確認する。
(季節によって日の長さが違うからかなりアバウトだけど、バッテリーが保つ内に太陽の位置と時間を何となく照らし合わせて、時間の感覚を身に付けないとな)
スマホに表示された極力キリの良い時間と、太陽の位置をメモ帳に書き記しておけば、その内なんとなく時間が分かってくるだろう、という単純な算段である。
光秀は既に知っているから問題ないだろうが、御殿の家臣達は現代の荷物の存在を当然認知していない。出来るだけバッグの中身を見られないよう気をつける為、使用を終えたらすぐに仕舞うようにしていた凪は、スマホとメモ帳を箪笥の引き出しの奥へと隠した。
再び文机の前へ座り、続きに目を通そうとページをめくりかけた瞬間、光秀の部屋へ八瀬が訪れる。
何事かを告げた後、静かに襖を閉ざして去って行ったらしい八瀬に首を傾げつつも意識を再び紙面へ戻せば、正面の襖から凪を呼ぶ声が聞こえた。
「……はい?」
「開けるぞ」
襖の向こうから低い音が鼓膜を震わせ、目の前のそれが静かに開かれる。文机の前に座ったままで顔を上げた凪の視線の先には、光秀がいつもの白袴姿で立っていた。
何故か風通しの為に開けていた中央ではなく、閉め切られている端の襖を開けたのか理解出来ないまま双眸を瞬かせた凪に構わず、光秀はいつもの真意が読めない笑みを貼り付けた状態で何処となく揶揄を乗せつつ告げる。
「凪、お前に来客だ」
「…え?私にですか?」
乱世で自分を訪ねて来る親しい間柄の存在など、現代人仲間の佐助くらいしか思い当たらず、つい首を捻った彼女はひとまず本を閉ざしてそれを仕舞った。
凪が行動を起こしたと同時、光秀の自室へ繋がる廊下から足音が聞こえ、近付いて来たそれが部屋前で止まると襖が開かれる。
「おい、光秀!どういう事だ、俺は凪の部屋へ案内してくれと、お前の家臣に頼んだんだぞ。それがどうしてお前の部屋へ連れて来られなきゃならない…っ」
「豊臣さん…!?」
「なっ!?お前、なんでそこに…!?」