第13章 再宴
光秀は昨夜の続きで文机の前に座りっぱなしであり、延々と文やら書簡やらを確認しては仕分け、新たな文や書簡を記し───といった作業を続けている。
風通しを良くしようと二面に設置されている窓を両方開け、中央の部分だけ襖を二枚程開けた凪は現在、先日返却されたばかりの荷物の中から一冊の本を取り出し、文机の上に広げていた。
ちなみに凪の文机は窓がある壁とは真逆の方にあり、仕切り兼出入り口となる襖を正面に見る形で置かれていた為、動かすのも何かと思い、そのまま使用している。
実を言えば凪の正面にある襖を開けると、光秀が文机に座しているその場所のちょうど真正面に来るのだが、それはまだ彼女が気付いていない事実である。
久々に開く現代からの持ち物───薬草図鑑をめくり、この時代に存在しているものと、その効能などを確認していた凪は、机の上に置かれた湯呑みへ手を伸ばし、それへ口をつけた。
この茶は四半刻前、部屋へ何かの報告に訪れたらしい光秀の家臣の八瀬(やせ)が煎れて来てくれたものである。
八瀬とは、なんだかんだでまともに挨拶をする暇もなく摂津から出てしまったが、彼は八千が襲って来た一件で最後まで護衛の任を果たせなかった事を酷く悔やみ、凪へ深々と謝罪を述べて来たのだ。
不甲斐ないと悔やむ八瀬をなんとか宥め、またこれからしばらく光秀の御殿で世話になる旨を告げれば、彼は今度こそ必ずお守りしますと強く息巻いて立ち去っていった。
光秀いわく、八瀬は若いが故に少々短絡的なところもあるが基本的には気の良い真面目な男であり、立ち直りが早いのが長所らしい。
単純で扱いやすいと言い、軽く笑った光秀のそれは果たして褒めているのか否か。
とにかく、見知った顔を見つける事が出来て更に安堵した凪は光秀の仕事の邪魔にならぬよう、一人のんびりと部屋で暇を潰しているというわけである。
(……そういえば今日、また夕方に宴があるんだっけ。昨日の仕切り直しって言ってたけど、何か起こったりしないよね?)
別に光秀としては、自分の為に行ってくれたのだから、そういう意味ではまったくないが、やはり若干の不審感はある。これ以上問題が立て続けに起これば、さすがに宴恐怖症になりそうだと内心で苦笑した。