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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 家賃



「光秀さ…っ、」
「自ら褥へ招いておいて、他の男の名を口にするとは…悪い子だ」

顔を上げられずにいる凪の無防備な耳朶へ上から囁き落とされた低い声色と光秀の吐息が混ざり、かすれる。
咎めの色を含む低音の名残に、つい硬く瞼を閉ざした凪へ一つ微笑した後、光秀は睫毛を伏せたままで耳の縁へ唇を落とした。帰り道の時とは異なり、音もなく唇を離してから掴んだ手首を解放し、乱れた上掛け用の着物を肩付近まで引き上げる。

「そろそろ休め。お前を寝不足にしたら、あいつの小言が増しそうだ」
「……半分は絶対光秀さんの所為なんですけど。ていうか、あいつって…────」

とん、と上掛けの上から肩を宥めるようにして軽く叩き、先程見せていた色気の影を消し去った光秀が穏やかに笑った。
男の唇が触れた側の耳を片手で押さえつつ、声を上げるわけにもいかないからと物言いたげな目で相手を見つめた後、凪が言葉を紡ぎかけた瞬間、ただ押し当てられただけのしなやかな人差し指の先端が凪の唇へ柔く触れる。

「おやすみ、凪」
「……おやすみなさい。ちゃんと寝てくださいね、絶対ですよ」
「ああ」

言葉を封じるようにした光秀の穏やかな声に眉根を寄せ、しばらく黙っていた凪だったが、やがて諦めた様子で挨拶を紡いだ。しっかりと念押ししてからくるりと寝返りを打ち、光秀から距離を取るように背を向けてずれた彼女が、腕枕状態であった光秀の腕を退かして箱枕へ頭を預ける姿に、そっと肩を揺らす。

穏やかな静寂の中、まだ幾分遠い夜明けの気配に瞼を一度伏せた光秀は、しばらくののちに小さく上下する背を向けた彼女の肩を見て、誰にも見せた事のない表情のまま、口元を綻ばせたのだった。


─────────────…


格子状になった大きな窓へと貼られている障子から、眩しさを幾分和らげた日の光が射し込んで来る。
元寝室というだけあり、昨夜から凪の自室となったこの部屋には縁側へ繋がるような大きな障子戸は存在しない。
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