第12章 家賃
「お互いの条件っていっても、私は家に置いて貰えるだけで十分なんですけど。というか、それが条件なのでは…?」
むしろあれもこれもと条件がついてしまうと、その分高く付くのでは、といった懸念もある。光秀の本心を推し量りつつ首を軽く傾げた凪の、明らかな警戒の様を見て彼は瞼を伏せて肩をすくめた。
「そう警戒するな。お前に関する衣食住はすべて俺が保証する。言った通り、不自由をさせるつもりはない」
「……それをいたれり尽くせりって言うのでは」
「話は最後まで聞け」
当初話していた通り、凪自身にははっきりと告げてはいないものの、自らの意思で連れて来た以上、凪へ不自由をさせるつもりなど微塵もない。
生活におけるすべてを保証すると告げられた凪は結局最初と何一つ話が変わっていないと不満を露わにするが、短く告げられた光秀の指先でぴん、と軽く額を小突かれ、片手でその箇所を押さえつつ眉を寄せた。
「代わりに俺は、俺を喜ばせる事を二つ、定期的にお前から貰うとしよう」
「…えっ!?どういう条件ですかそれ…!そもそも光秀さん、一体何したら喜ぶんです!?」
小突いていた手を下ろし、さも面白そうに笑った光秀のとんでもない条件に目を白黒させた凪が思わず困惑した様で問いかける。とんでもなくアバウトな条件過ぎて想像が付かないし、光秀が喜ぶ事など皆目検討もつかない。
困窮すればいいやら、怒ればいいのやら分からない心地になりながら相手を窺えば、光秀は相変わらず緩やかな笑みを口元へ刻んでいるだけだった。
「それはお前がこの可愛いおつむで考えろ」
「もう、からかわないでください!衣食住がかかった死活問題なんですよ…!」
よしよしと言わんばかりに片手で凪の頭を宥めるように数度撫ぜると、むっとした彼女が両手で光秀の手をむんずと剥ぎ取る。
衣食住の保証は大変有り難いが、条件が難し過ぎる。いっそ具体的に光秀が提示してくれればと思ったが、目の前に居る男の楽しそうな笑みを見る限り、それはないだろう。
(喜ばせる…って、光秀さんみたいなタイプが一番難しいんじゃ?)