第12章 家賃
未知なる単語の出現に光秀の目が軽く見開かれた。疑問を抱くよう首を軽く傾げた彼は凪の顔を覗き込んでいた体勢を戻し、顎へかけていた指先を離す。
言葉の意味を問う意図で視線を向ければ、我に返った様子で凪は解説を始めた。
「ルームシェアっていうのは、家族や恋仲じゃない人同士で一緒に家…御殿に住む事を言います。ちなみに、住むには御殿の持ち主に家賃を払う必要があります」
「……ほう?つまり俺とお前は【るーむしぇあ】中であり、お前は俺に部屋代…家賃を払う義務があるという訳か」
「さすが光秀さん…理解が速くて助かります。そう、例え護衛の名目だろうがなんだろうが、家賃は発生するものなんです」
思案げに凪の話を脳内でまとめた光秀の眸が、何かの色を過ぎらせ、そっと意味深に眇められる。納得したといった様子で緩やかな笑みを浮かべ、告げてみせると理解を示した事へ安堵したらしい彼女の目が嬉しそうに輝いた。
そんな凪の様子に、つい更に口元が笑みを刻んでしまいそうになり、光秀は気取られぬよう再び腕を組んで片手を覆うように口元へあてがい、先を促す。
「……つまりお前は御殿に住む間、俺に家賃を払いたいと、そういう事だな」
「そうです。でも正直この時代の家賃の相場が分からないので…その辺りは光秀さんが決めて欲しいんですけど」
そもそもこの時代に家賃という概念があるのかは謎だが、ただ何も支払わずに世話になり続けるよりは余程ましだと考え、光秀へ相場を窺えば、彼は意外だと言わんばかりに軽く双眸を見開き、いまだ口元を手で覆ったまま静かに告げる。
「俺にお前の家賃を定めろと?」
「はい……ただ、まだ稼ぎ口がちゃんと決まってないので、出来ればお支払いは少し待って欲しいんですけど」