• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 家賃



最後の礼だけは幾分柔らかい面持ちで告げた凪を見て、押し退けられた腕を再び持ち上げた光秀の指先が軽く頬へ触れる。滑らかな感触を指の腹で楽しみ、するりと腕を離した男が瞼を伏せた。

「……いや、城から連れ出したのは俺だ。お前に不自由な思いをさせるつもりはない。何か入用なものがあれば言え」
「ありがとうございます。…でも、さすがに全部を甘える訳には行きません」

何事かを考えているのだろうか、瞼を伏せたまま淡々と告げた男の端正な面を見つめていた凪であったが、次いだ言葉に凪は我に返った様子で首を左右へと振る。
怪訝な面持ちでそっと瞼を持ち上げた光秀の眼を見やり、凪は心の内を吐露するよう、視線を返した。

「何から何までお世話になるのは大人としてどうかと思うんです。恋仲でもない男の人に面倒見られっぱなしなのは情けないですよ」
「…女とは得てして、男に面倒を見られるものだろう」
「それは凄く男らしくて格好良い考え方だとは思いますけど…」

この時代の女性は分からないが、凪には現代人としての価値観が染み付いている。住まいを提供して貰えるだけでも心底有り難い事ではあるが、一から十まで面倒を見られるのはどうにも居心地が悪いし、何より申し訳無さが先立つのだ。

凪の主張に耳を傾けていた光秀だったが、彼とて譲れないものはある。そもそも、言った通り彼女の意見を聞かず、城から連れ出してここへ連れて来たのは護衛という名目は嘘ではなかったが、一番の理由は仄かに小さな種火を燃やし始めた己の欲からだ。

「凪」

薄い唇へ名を乗せた光秀へ視線を向け、凪が双眸を瞬かせる。黒々とした眼を見つめ、身体を彼女の方へと向き直せば、それに倣って凪も同じように正面から男と向き合う形になる。おもむろに伸ばした指先が顎へかかり、くい、と上を向かせるようにして光秀が凪の顔を覗き込んだ。

「俺に面倒を見られるのは嫌か?」

笑みもなく、何処とない真摯さを窺わせた光秀の様子を真正面から捉え、彼の発言が揶揄の為のものでない事を察し、慌てて否定を紡ぐ。

「そういう訳じゃないんです。でもやっぱり駄目です。だってこれはいわばルームシェアですから…!」
「…【るーむしぇあ】?」

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp