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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 家賃



「……受け取った報酬に見合う働きをするとしよう。お前を片時も離さず傍に置いて、な」

偽りの中に真実を混ぜた。
そんなものなど受け取らずとも、凪を守ると自らの意思で決めているくせに、意地の悪い言葉を落として口角を上げた男は、仕上げとばかりに耳縁から指先を離した後、いまだ赤く熟れているそこへ唇を触れさせる。
さながら先程の仕返しのようなそれは、ちゅ、と微かな音だけを残して離れて行った。

真っ赤になって震える凪の口から文句が飛び出すまであと僅か。それが分かっているにも関わらず、つい愛でずにはいられない男は満足げに笑い、凪の手を取る。
横から聞こえて来る羞恥故の文句へ飄々と言い返しながら、それでも離されない繋がれた状態の手へ光秀は瞼を伏せて笑い、二人は御殿への道を並んで辿って行ったのだった。


───────────…


光秀の御殿に辿り着く頃には、五つ半(21時)に差し掛かろうとしている刻限になっていた。

出迎えてくれた家臣達は皆男性であり、光秀よりも年若そうな者や、年齢が上の者など、様々な年齢層が揃っている。
その中で見知った顔である九兵衛や八瀬(やせ)を探そうと思った凪だったが、そういえば二人はまだ役目を終えて戻って来ていなかった事を思い出した。
結局あのまま文句を言いながらも、手を繋いで御殿へと至った訳だが、凪について不思議そうな面持ちを浮かべる者は一人も居ない。それどころか、これがあの織田家ゆかりの秘蔵の姫且つ、光秀と共に長旅への御役目を果たした人物か、と感心の眼差しまで向けられた始末である。

光秀は家臣たちへ出迎えの労いをかけた後、やはり手を繋いだままで御殿内へ上がった。
ちなみに凪に関する説明は一切ない。家臣達も特に凪について主へ問う事はせず、二人を見届けた後でそれぞれの仕事に戻って行ったのだった。

武将の御殿と聞き、果たしてどの位の広さなのかと考えていた凪であったが、安土城の大迷宮を日中経験していた事もあって、まだ比較的覚えやすそうな構造である事に内心で安堵する。
光秀の手に引かれ、並んで歩きながら凪自身が使う事になるだろう幾つかの要所を押さえて説明してくれたお陰で、御殿内であればあまり迷う事もなさそうだ。

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