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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 家賃



彼女が手を伸ばして来た事へ僅かに目を瞠った光秀であったが、その眼差しがすぐに柔らかなものに変わった事は、この暗闇の中では夜目の効かない凪には見抜けないだろう。

「どうした。…そう無防備に男へ触れるのは、褒められた行為ではないと思うぞ。勘違いをされたいというのなら、話は別だが」
「…じゃあ恋仲でも何でもない女の人を男の人が触るのだって褒められた行為じゃないと思いますよ。勘違いされたいか、修羅場を作りたいなら別ですけど」

揶揄を含ませた男の声が鼓膜を叩き、果たして自分はどうなのかとつい凪が半眼になった。触れた光秀の銀糸は闇の中でも淡く輝いているような気がして、さらさらと触り心地が良い。どうせいつもの軽口だろう、そう思えば特に苛立ちは湧いて来なかったが、変わりに凪の中には別の感情がふと小さく芽生えた。

(…この人は、いつもそうやって上手く口を回して自分の感情をはぐらかす)

明確な変化ではなかったものの、伊達に数日四六時中一緒に居たわけではない。凪は違和感の原因こそ突き止める事は出来なかったが、直感的に何となく光秀が何事かを思っている事を察知していた。直接的な事を訊いたとて、飄々とかわしていく事が分かっていたから、それがなんだかとても悔しい気がして、つい減らず口を叩いたのだ。

「…天主で信長様の伽羅香を嗅いだ時は見えない尻尾が見えたような気がしたんだが、今の仔犬は随分とご機嫌斜めだな」
「伽羅の香りについては否定しませんけど、機嫌が微妙なのは光秀さんの所為です」
「……ほう?」

凪に倣って足を止めた光秀が緩く肩を竦めながら瞼を伏せる。長い睫毛が微かに揺れる様を見て、一瞬気まずそうに眉尻を下げた凪はそれでも物怖じしないままにはっきりと告げた。

「…何か考えてますよね。吐き出した方が楽になるかもしれないですし、少しくらい言ってくれてもいいんじゃないかって思って。…まあ、私相手に言いたくないなら…それは仕方ないですけど…」

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