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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 出立



奥底を見透かされそうな眼差しを受け、しかしそこから目を逸らしてはいけない気がして、凪は彼の金色にしっかりと眼を合わせ、硬く閉ざした唇を開いた。

「森の中と、左の二の腕…それから左肩の怪我に気を付けてください」
「…なに?」

伝えられる精一杯を口にした凪の言葉は、光秀には些か予想外であり、ひどく唐突だ。僅かに眉根を寄せ、怪訝な様を見せた彼を前に、それ以上説明のしようがない凪は短く言葉を締めくくる。

「これ以上は、私もどうやって説明したらいいか分からないので、何も言えません」
「…勿体振る様を見せていたから一体何事かと思えば、随分と的を得ない事を言うものだ。そこまで言われて、俺が追及を止めると思うか?」

淡々とした音が頭上から降ってきたと思えば、凪の前に大きな影が迫った。目の前に佇んでいた光秀が一歩踏み出し片膝を着いて、開いていた二人の距離を詰める。
笑みを浮かべていない所為か男の表情は無く、それに思わず身じろいだ凪の動きを制するよう、片手を彼女の顔横を過ぎらせ、背後にある大樹へとん、と着いた。
そのまま端正な顔が目前まで迫り、これまで接した中でもっとも近い距離感で瞳を覗き込まれ、息を詰める。
ふわり、と風に乗って男の上品な薫物の香りが鼻腔を擽った。

「…いくら追及されても、説明出来ないものは出来ません」
「お前に対する不審感を俺が結果的に更に深める形になっても、同じ事が言えるのか。その気になればお前のような小娘一人、口を割らせるなど訳もないが」

間近で覗き込んだ漆黒が自身の言葉に揺れる様を見つめ、意図的に低めた音で追い詰める。引き結んだ彼女の唇が、言葉へ呼応するよう僅かに震えた。
それでも真っ直ぐなまま、逸らされない瞳の奥に毅然とした意思が見えたような気がして、光秀は双眸を眇める。
凪の言ったことは確かに的を得なかった。例えばそれが事前に計画されていた襲撃の一端だとしても、何処を傷付けるかなど予め決めるものだろうか。咄嗟に着物の袖を掴まれたあの時、凪の様子は未知の何かに怯えているようだった。

(目の色が変化した、あの様子と何か関わりがあるのか?)

それが口を閉ざす原因なのだとしたら凪はまた、先程見た畏怖の色を表情に浮べるのだろうか。
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