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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 家賃



今の段階でさえ現代建築に置き換えれば欠陥住宅かと言われる程の角度の階段だというのに、これ以上角度が上がったらどうなるのか。
別に端を掴んで登るだけの事だが、板と板の隙間から階下が見える構造の階段且つ、この薄暗さではかなり足元が危ない。
夜目が利くらしい光秀などは特に問題なく登っているが、そう出来ているのが不思議なくらいである。

光秀の言葉につい渇いた声を発した凪の顔が僅かに強張ったのを目にし、男は少し可笑しそうに喉奥で小さく笑った。

「意地を張らず、掴まっておけ。お前が万が一転がり落ちたとしても、生憎俺も片手が塞がっているからな。すぐに助けてはやれないぞ」
「……お願いします」
「素直じゃない仔犬だ」

片手に抱えた包みを軽く上げて見せた光秀の煽るような発言を耳にして不安にならない者はなかなか居ないだろう。背に腹は代えられないと言わんばかりにおずおずと凪が手を伸ばせば、笑いを含んだ声で光秀が肩を竦めた。
差し出された手を掴み、しっかりと繋いだ光秀はゆっくりと凪が転がらないよう気を配り、急な階段を上がって行く。

やがて階段を上がった先、幾つか部屋がある階へ辿り着くと長い廊下が目に入った。
夜という事もあり、途中に灯りが置かれている以外は特に光源のないその廊下の先は薄暗く、向こう側を見通す事が叶わない。

「この先が信長様がお住まいの天主だ」
「へえ…」
「既に信長様はお戻りになり、俺達をお待ちだろう。あまり待たせる訳にもいかない。少し急ぐぞ」
「はい、分かりました」

(ていうか信長様、いつもあそこ行ったり来たりしてたんだ。結構距離あるし、大変だな)

それでも住まいを天主に選んだというのだから、この時代の人々は方法が限られている分、現代のように移動というものに横着しない性質(たち)なのかもしれない。
光秀に促されるまま長い廊下を進んで行くと、ふんわりと鼻腔をくすぐる香りに凪が目を見開いた。
それは信長の住まいに近付くにつれて色濃くなっていくようであり、つい凪の歩みが若干早足になる。
その歩みの変化は隣を歩いている光秀であれば当然気付くところであり、階段を登る際に手を貸して以来、繋いだままであった彼女の小さな手をくい、と軽く引いた。

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