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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 家賃



───────────…


宴が完全に解散となってからしばらくの後。

大広間から自室へ移動した後、光秀はお千代から瑠璃色の布で覆われた包みを受け取り、片手でそれを抱えると再び凪を伴って歩き出した。
行き先は先程信長に告げていた通り、天下人の住まいとなっている天主である。

いまだ足が本調子ではない凪をさり気なく気遣いながら、歩調を彼女に合わせて歩いていた光秀はふと、宴の時の一件を思い起こしていた。
それは信長の傍へ凪が寄った時の事である。あの時の凪は何処かぼんやりとしていて、まるで何かにあてられてしまったような面持ちを浮かべていた。
彼女の黒々とした眼は熱を帯び、見た事のない種類の温度を灯していたような気がして、それが正直、主君相手に向けられたものであったとしても、一人の男としてはなかなか面白くはない光景であったのは確かである。

(…まあ、思い当たる事といえば一つしかないが)

そしてその原因について、光秀はほとんど確信に近いものを脳裏へ思い描いていた。

最上階という事もあり、天主への道のりはそれなりに遠い。
本丸御殿に住んで居るならそこまでの距離もないのだろうが、あの天下人が選んだ住まいである。そう容易に辿り着けるものでもない。
道のりは思った以上に複雑ではないが、急な角度の階段を幾つか登る途中、凪が階段脇の板に掴まっているのを目にし、光秀は先を上がりながら振り返って手を伸ばした。

「ほら、掴まれ」

目の前へ差し出された大きな手のひらを視界に捉え、さすがにむっとした凪が数段上で止まっている光秀を見る。

「子供じゃないんですから、別に大丈夫です」

登るのを怖がっているのだと思われた事が癪に触ったらしく、不機嫌な色を見せて凪が光秀の手を拒否した。廊下等を歩く時は特に抵抗なく手を繋いでいる凪だが、それとこれとは意味が違うらしい。
猫目がちな黒目が光秀を文句ありげに見上げて来る様は、なかなかに愛らしかったが、それを口にすると更に文句が降って来る為、内心で苦笑するに留めた男が一度差し出したそれを引っ込めた。

「そうか、この先の階段はこれより更に角度がある。お前が問題ないと言うなら構わないが」
「…え゛」

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